第五十七時限目

「なんじゃそりゃっ!意味分からんっ!」




「いいっ!?桂太も結芽甘やかしちゃダメっ!」




「女ってこえぇ~。」



「菜緒、朝まで優しかったじゃん…。」




わざと拗ねてみるあたし。




「朝まではね。でもちょっと気が変わった。」




「何で?」




「ちょっとね。ある子からの情報で真実が分かったから。」




「拓も拓なりに辛いって事。ある人のろくでもない言葉が原因でね。」




「ある人…?」




「さっ!あたし教室入るから結芽も3階戻って!」




「俺も戻ろ~♪」




悶々したあたしを残し、2人はさっさと教室へ戻って行く。




「桂太君すっかり菜緒に仕切られちゃってるし…結婚したら大変そ…」




取り残されたあたしは、仕方なく自分の教室へと戻る事にした。






『黒幕…』






『あの人…』






「何?このサスペンスみたいな展開…」



教室の前に来ると、拓が友達と話をしていた。




拓は目が合った瞬間思い切りシカト。




(む、むかつく…っ)




その後すぐベルが鳴り、田村が教室にやって来た。




そして明日からの大雑把な説明や修学旅行の話をされ、簡単に掃除をし午前中にお開きとなった。







放課後。




あたしは田村の命令通り、教室で待機。





そして、そんなあたしの後ろでもう1人。




拓が漫画を読みながら珍しく素直に田村を待っている。




解散してから15分経過…




教室にはあたしと拓以外、生徒は誰も残っていなかった。




(田村ぁ~早く来てよ~っ)




2年4組だけがまるで異空間の様な静けさ。




聞こえるのは拓が読んでる漫画のページを巡る音と、廊下にいる生徒の話し声だけ。




いまいち微妙な緊張感を漂わせる雰囲気の中、ようやく田村がやって来た。



「お、ちゃんと残ってたな。」




「先生早くして~あたし友達待たせてるんです。」




「友達?彼氏かぁ?」



拓がいる中で、とてもシャレにならない田村の発言。




「彼氏じゃなくて本当に友達っ!」




「冗談だ冗談(笑)でもすぐには帰れんぞ?」



「え~っ!何でですか~っ!?」




「明日配るプリントを3つ折りにしてもらうのと、後ろの壁に色々貼ってもらいたいもんあるんだ。」




田村の脇には、プリントやら画用紙やら画鋲やら…とにかく沢山の仕事らしき道具が抱えられている。




「俺は、今から職員会議だからおまえ等でやってくれ。」




「先生…これ余裕で1時間はかかりますよ?」




「こんなのただ折って貼るだけだろ。」




ひょうたんみたいな顔でひょうきんに笑う田村。



「松澤、2人でやれるよな?」




(何で拓に振るの~っ!!)




きっと『嫌だ』って




『無理』って言うに決まってる。






あたしは敢えて後ろを振り向かずに拓の返事を待つ。






「嫌だ。」






(やっぱり…)




これ以上2人きりなんて勘弁




心臓に悪いだけ。






「ねっ!?先生、だからさ、これは明日みんなで………」




「先生がジュースおごってくれんならやってもいいよ。」




「そうそうジュースおごってくれんなら……ってえ゛ぇっ!!」




拓の予想外の発言に、思わず後ろを振り向いてしまったあたし。




「ジュースか…、ちゃんと仕事やれよ?」




「やるよ。」




「部活も真面目に来いよ?」




「行く行く。」




「…皆には内緒だからな。」




そういって先生はスーツの内ポケットから財布を取り出し、あたしに2人分のジュース代をくれた。

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