第八十二時限目

「結芽、霧島君と…した?」




「は?」




「Hした?」




「してないっ…する訳ないじゃん…っ!!」




立ち上がり、必死に否定するあたしを見て2人が安堵の表情を見せた。






「結芽…よく聞いて?」




菜緒があたしの両手を掴む。




「…何?」




「あんた、『3股かけてる』って噂流れてる。」




「3股!?」




「霧島君に拓…そして何故か桂太。」




「…何それあたし凄い器用な女じゃん(笑)」




「笑い事じゃないよっ!?」




菜緒に大声で怒鳴られ、中庭にいた他の生徒の視線が一斉にあたしに注目された。







「結芽分かってる!?噂では『霧島君とヤって桂太と影で付き合い、それがバレて拓に振られた』なんて言われてるんだよ!?」



あたしが




3股…?




霧島君とHして




親友の彼氏の桂太君にちょっかい出して




天罰として拓に愛想つかされる…?






「アハハ…(笑)きっつ―……」





「結芽っ!だから笑ってる場合じゃないってば!!」





「だって笑うしかないじゃんっ…!!」






あたしの中で




今まで我慢してきた何かが崩れる音がした。






「…で?桂太君と菜緒はあたしが霧島君とヤったって信じたの?」




「いや俺等はただ…」




「信じたのか信じてないのか、どっち?」




「……」




黙る桂太君。




そして、そんな桂太君をかばうかの様に菜緒があたしに言った。









「信じたよ?」






「菜緒っ!」




「桂太はちょっと黙ってて。」



中庭に予鈴が鳴り響く。





それでも構わず菜緒は話すのを辞めなかった。









「結芽がフラフラしてるからだよっ!?」




「フラフラ…?」




「いつまでも意地張って、結局拓を他人に取られて…挙げ句の果てには3股なんて噂…っ、結芽は自分で自分の価値下げてんのが分かんないのっ!?」




「……」




「菜緒そろそろ辞めとけ」




桂太君が菜緒の腕を掴み、校舎の中へと歩き出す。






「結芽ちゃん」




「はい…」




「ごめんね?でも菜緒の気持ちも分かってやって?」











あたしって尻軽に見えるの?




誰とでもヤってしまう様な




そんな女に見えるの?



あたしはどんな時だって拓を




拓を1番に想っているのに…




(あたしも早く教室に帰らなきゃ…)




頭ではいくらそう考えても、中々体が動いてくれない。




桂太君と菜緒の姿は小さくなって行くばかり




(あたし1人ぼっちだ…)








噂は噂




きっとある程度の期間が過ぎれば消えて行くはず…









(でも…)





頭によぎるのは拓の顔ばかり






怖い…





拓の反応を見るのが




怖い…







半ば拓と顔を合わせる事になるのに躊躇しながらも、あたしはゆっくり中庭を歩き出す。






その時。




あたしの携帯に1件のメールが届いた。





(誰だろ…?)




教室に向かいながら、受信ボックスを開く。




送り主は登録すらされていない、全くしらない携帯番号。




あたしは1行しか書かれていないそのメールの内容に、全身の血の気が引いた。






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