第八十三時限目
『俺とも今夜どお?』
頭の中が真っ白になる。
酷い
この噂がデマじゃなくて本当なら仕方ない
でも
たかだか噂1つで
あたしはこれからみんなに白い目で見られて行くの…?
『もう寄り掛かる居場所がない』
やり場のない思いを抱えながら、あたしは無意識に教室ではなく昇降口へと走り出す。
(バック…放課後取りに来よう…)
持ち物はブレザーに入っている携帯だけ
あたしは誰もいない下駄箱で1人涙を拭いながら靴に履き変えた。
その時だった。
「結芽…っ」
廊下から響いてくるあたしを呼ぶ声。
(次は何…!?もう嫌だ…っ)
あたしは追いかけて来る存在を避けるかの様に、急いで昇降口を出た。
「結芽っ!!」
走りながら、あたしは聞き覚えのある声の方を向いた。
(え……、何で…?)
上履きのまま、あたしを追いかけて来る人物…
「な、何で拓がここにいんの―っ!?」
「うるせぇ!ってか止まれっ!」
学校の近くは綺麗な住宅街。
「拓が学校戻るなら止まるっ!来ないでよ~っ!」
「お前今すぐ止まんなかったら『財布返せ―っ』って叫ぶぞ!」
「何っ…それっ…」
寝不足な上での猛ダッシュ。
「ほぉ~ら、ど~んどん近くなるぅ~」
立ち止まったあたしは、息1つ乱していない拓にまんまと御用になってしまった。
「お前、普通逃げ足は早くなくちゃダメなもんだぜ?」
「運動バカのあんたと一緒にしないでっ…」
(ぐ―…、気持ち悪くなってきた…)
両手を膝に付き、かがんだ状態であたしは拓を睨む。
「バ~カ、俺には運動ってゆう才能があんだよっ!お前は何もねぇだろがっ!」
「うるさいっ…」
(お願いだからもう話し掛けないでよ~)
「ってか何!?用件は!?」
「あ?あ、あぁ…まぁここじゃなんだから…」
拓がチラッとあたしの顔を見る。
「あれ…?」
「何っ!!」
「お前化粧濃くね?顔真っ白だけど」
「化粧じゃないっ!これは…っ」
今日は厄日だったらしい。
「吐く…っ、そこどけてっ…!」
「はぁっ!?」
「う゛…っ、本当に吐く…っ」
「うわっ!ちょっ、ここじゃヤバいだろっ!」
あるお店の前にある電柱。
「う゛ぇ…っ」
想いを寄せている人が目の前で見守る中
あたしは『女』とゆう事を捨て、潔く吐きまくった。
途中、お店のおばあちゃんが出てきて怒鳴られると思いきや、逆に心配してくれ、更にジュースまでくれた。
「す…すみません…」
「いいのいいのっ!具合が悪かったんでしょう?」
「はい…」
「片付けは私がやるから、あなたはもう帰りなさい。」
「えっ、いいです!あたし片付けますからっ…」
「何言ってるの!顔真っ青よ!?ほらっ、彼氏ちゃんと送って行きなさいっ!」
おばあちゃんに背中を叩かれ、拓がハッと我に返る。
「あ、俺っ!?」
「何、あんたこの子の彼氏じゃないの?」
「ちょっとおばあちゃん…っ」
このおばあちゃんは生徒や先生の間でもちょっとした有名人で、何処で仕入れて来るのか知らないが、とにかくやたらとうちの高校の情報を知っていたり、散歩をしていた犬が糞をして飼い主がそれを処理しなかったりすると、とてつもなく怒鳴り散らしたりする。
いわゆる正義感溢れた、ちょっとお節介焼きなおばあちゃんなのだ。
「この人は彼氏とかじゃないですっ。」
今日初めて会話した老人に鼻息を荒くしながら否定するあたし。
「あら、違うの?お似合いなのにねぇ…」
拓を見ると、苦笑いしながらうつ向いている。
(やだ…こんな話したくない)
「おばあちゃん、やっぱあたし片付ける。」
「あなたも意地っ張りね~いいから帰りなさいっ!」
「は、はい…」
あたしと拓はおばあちゃんに背中を押され、そして片付けしないまま帰る事を何回も謝りながら、ゆっくりと歩き出した。
無言で歩く道
あたしはふと思い出した。
「拓、学校は?戻んないとっ!」
「え?あぁ、いい。」
「ダメだって!田村に怒られるよ?」
あたしの数歩後ろを歩く拓。
『迷惑を掛けちゃいけない』
そう思い、力づくでも学校に戻そうと拓の方を振り返った。
「あたしはもう平…気…って何ニヤニヤしてんの?」
「へ?(笑)」
「へ?じゃなくて…」
「お前、もう大丈夫?」
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