第四十二時限目

帰り道。





あたしと菜緒が2人乗りするのを、桂太君が走って追いかける。





「君達っ、俺に駅まで走れと!?」




「桂太君運動神経いいから大丈夫っ(笑)」




「俺も乗せろ―っ!」




全速力で追いかけてくる桂太君。




「桂太っ、顔やばい(笑)」




「あ゛ーっ!もう無理っ!」




疲れ果てた桂太君が立ち止まりその場にしゃがみ込んだその時、




菜緒が持っている桂太君のバックから携帯の着信音が聞こえた。




「桂太っ!携帯鳴ってる!」




「投げて~っ」




菜緒が投げた携帯を桂太君が受け取り誰かと話し始める。




「ねぇ菜緒」




「ん?」




「君の彼氏、いい人だねっ!」




「惚れんなよっ!」




「人様の物に手ぇ出しません(笑)」




電話が終了し、小走りで桂太君があたし達の所に来た。



「菜緒、今日用事は?」




「無いよ?」




「結芽ちゃんバイトは?」




「無いけど…」




「じゃ決まりねっ」




「「はぁ??」」




「2人してつっこむなっての(笑)」




桂太君が笑いながら歩き出す。




「桂太君、何?」




「今から行くよ!」




「何処に!?」




「拓ん家っ」




「え゛ぇーっ!?」






またまた勃発した、桂太君の思いつき行動。




(またぁ…!?)




嫌がるあたしに、行く気満々の奈緒。




「レッツゴー!!」




「あ゛ぁ…」




結局あたしは2人に無理矢理引っ張られ、そのまま拓の家に行く事になった。



「ねぇ…あたし行っても大丈夫なの?」




あたしは、駅で切符を買いながら桂太君に聞いてみる。




「拓は俺だけが来ると思ってるけど、全然大丈夫っ」




「え~…拓知らないんでしょ?なんか行きづらい…」




「菜緒もいるし大丈夫だって。あ、でも拓の停学理由は知らない事にしといて?」




「無理だよ…部活に行けば分かる事だし」




「じゃ、タバコで停学くらった位でやめといて?」




「…うん…」




あたしの地元から3駅。




菜緒の地元でもあるこの街は、結構栄えていて便利な街。




「なんか拓に買ってく?」




菜緒が駅の中に備え付けてあるコンビニで言う。




「そうだね。拓はコーラだっけ?」




「結芽ちゃん違う違うっ!」




ドリンクコーナーにいたあたしと菜緒に桂太君が手招きをした。



「拓は、こ・れ・!!」




桂太君が手にした物…






男のバイブル、エロ本。





「あぁっ、拓喜ぶねっ!」




「菜緒ちゃん…間違ってるから…」




「独り身は寂しいからね~」




そして桂太君はその本を、あたしと菜緒はジュースとお菓子を買い拓の家へと向かった。






歩いて20分。




ちょっとした細道を抜けた場所に拓の家はあった。




桂太君は我が家の様にインターホンも鳴らさず家に入って行く。




「桂太君っ…」




「し~っ!」




あたしと菜緒は、とりあえず息を潜めて桂太君の後ろを歩き、2階の1番奥の部屋にたどり着いた。




部屋の前に立つと、扉の向こうからはテレビの音のみが聞こえて来る。




(何だ?この変な緊張感は…)




拓の家は、大きくて天井が高い。




あたしが周りをキョロキョロしていると、桂太君が部屋をノックした。



「何!?」





部屋の中から聞こえて来る拓の声。





「桂太だけど」




「お~、入って~」





桂太君が静かにドアを開けた。





「よぉ、拓」





扉に背を向けテレビを見ていた拓が、ゆっくりとこちらを振り向く。





「おぉ……お?」





その拓の間抜け顔に菜緒と桂太君は笑い、あたしはわざと目を反らした。





「…は?え、何?」




「ごめんねっ、連れて来ちゃった」




「…はぁっ?菜緒は地元だから分かっけど、何でそいつまでいんだよ?」





拓が、思い切りあたしを指差しながら言う。




「あたしだって来たくて来た訳じゃありません」




「ちょっと拓っ!結芽はね、病み上がりなのにわざわざ来たんだよ?感謝くらいしろ!」




菜緒がドスドスと部屋の中に入り、コタツに足を入れながら言った。



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