第四十一時限目

『無事停学になれた?バ~カ(笑)あと結芽ちゃんのアドレス、公園の便所に書いといたからっ』




全ては磯田君が仕組んだ罠。




友達と帰ろうとする磯田君に、拓は背後から思い切り飛び蹴りをしたらしい。




昔から担任の先生にあまり好かれてなかった拓は、結局全ての否が拓にあると判断され、1週間の停学処分となった。






「別に結芽ちゃんのせいじゃないよ?磯田さ、あの事件以来、影で結芽ちゃんの噂立ててたんだよね。」




「噂?」




「『男好き』とか、『性格ブス』とかさ」




「何それ…」




「でもね、ちゃんと結芽ちゃんを知ってる奴等は信じてなかったし、菜緒も誤解を解いてたんだ」




「あたし、全然知らなかった…」




「菜緒に口止めされてたからね。まぁ、拓の停学の事も菜緒にはあらかじめ話ておくつもりだったんだけど、昨日は俺拓ん家泊まってからさ…」




「だから今朝…あんなに眠そうだったの?」



「30分しか寝てなかったからね(笑)」



あたしが磯田君のキスを拒んだせい。




あたしがほんの一瞬の間、我慢してれば拓が停学になる事もなかったし桂太君や菜緒にこんなに迷惑を掛ける事もなかった。




「桂太君」




「ん?」




「ごめんね…」




「俺は何もしてないよ?…あ、ねぇ喉渇かない?」




そう言って、桂太君は渡り廊下を過ぎた所にある自販機でジュースを買って来てくれた。




「ミルクティーでいい?」




「うん、ありがと」





階段に座り、ジュースを飲みながら会話を続ける。





「変なメールとか入ってきてない?」




「うん、大丈夫だよ」



「昨日の夜、拓と公園行ってちゃんと消しといたから」




あたしはいつも周りに助けられてばかり。




「でも、なんであたしには内緒だったの?」



「拓がさ、『あいつ短気だけど、きっとすげぇ弱いから何も知らない方がいい』って」




「そんな事言ってたの?」




「あいつ…いつもはバカだけど本当はしっかりしてんだよね」



「確かに…そうかもしれないね」




「ね?だから今から磯田の所に殴り込みなんて辞めなよ?」




「……」




「拓の為だと思ってさ、それに磯田に仕返しならもう俺がしといたから!」




「え?」




「磯田のバックの中に、俺のタバコ入れて担任の机の上に置いてきちゃった(笑)だって中身見なきゃ誰のか分かんないでしょ?」




「そんな事して大丈夫なの?」




「余裕!磯田って1人じゃ何も出来ない男だから(笑)きっと、今頃音楽室で必死こいてバック探してんじゃない?」




携帯を取り出し、誰かにメールを打ちながら桂太君は悪ガキっぽく笑った。





そして、その10分後。





菜緒が桂太君のバックを持ってやって来た。



菜緒があたしに近付き頭を撫でる。




「結芽、あんたはいい子だよ?」




「俺もっ、よしよししてあげる(笑)」





あたしにとって、桂太君は歳の近い兄貴の様な存在。





そして、菜緒はずっと欲しかったお姉ちゃんの様な存在。





そんな2人の手は温かくて気持ちがいい…





(うわぁ…泣きそう…)



「あたし、1週間お風呂入ってないよ?」




あたしの頭を撫でる2人の手がピタリと止まる。




「嘘ぴょ~んっ」





(こんな事でメソメソしてらんないっ!)




泣きそうなのを悟られない様に、あたしはわざとはしゃいでみる。



「桂太…この子どうする?」




「拓に似てきましたな…」







その後、結局桂太君はそのまま部活に出ないで帰る事にし、あたし達は3人で帰った。



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