第六十六時限目

「そういえば竹内って犬みたいだよね」




ポッキーをかじり、海を眺めながら霧島君があたしに言う。




「犬!?何処が!?」




「好きな奴には忠実な所(笑)」




「別に忠実じゃないよ~」




「あ、やっぱ好きな奴いるんだ(笑)」




「あっ、こらっ…はめたな(笑)」




「竹内に好かれる奴は幸せなんだろうねっ」



「…どうだろ、迷惑なだけじゃない?(笑)」



「え~どうして?」




「あたし天邪鬼だからさ~(笑)」




すると、霧島君がポッキーをあたしのほっぺにくっつけてこう言った。





「じゃぁさ、俺が確かめてあげるよ」





霧島君の方を振り向いた瞬間、あたしはほっぺにくっつけられていたポッキーを口の中に放り込まれた。



「俺、竹内の事好きだし…竹内さえよければ付き合わない?」





霧島君は明るくて楽しい。




勿論、今日一緒にいても飽きるって事がなかった。





でも…







「ごめん…」




「何で?俺といると楽しいよ?」




「うん、今日も楽しかったよ」




「俺じゃ満足しない?」




そんな訳ない。




それに、満足するとかしないとか…




あたしはそんな鼻を高くできる素材の人間じゃない。




「霧島君、海に酔っちゃたんじゃない?(笑)」




「俺じゃダメ?」




「あ、さっきの犬見ててムラっときたか?」



「話摩り替えても無駄だよ」





拓の時もそうだった…



流れを別の方向へ変えてもすぐに戻される。



(ハッキリずばっと言わなきゃな…)



「あのですねっ…」




「うん」




「あたしはちゃん…」



「ん?」




「…ふっ…」




「どうした…」





『ぶぇっくしょいっ』




本当、タイミングが悪い。




あたしとゆう人間は、いつも大事な場面でヘマをしてしまう。





「うわっ!竹内鼻垂れてるっ!」




「へ…?あ゛っ!ホントだっ!」




あたしは急いでティッシュを取り出し、垂れ下がる鼻を咬む。



(もうっ…あたしのボケナスっ…)




慌てたあたしを見て霧島君は大爆笑。




「ごめんなさい…汚いの見せてしまいました」




「ってかさ…」




「いいですいいです、笑って下さい…その方があたしも楽だし」




どうやら笑いが止まらない様子の霧島君。




「ってか…鼻咬むのも音たてすぎっ!(笑)」



(しまった…今度はそっちか…)




さすがに恥ずかしくなるあたし。



「大体何時間も海にいれば鼻位垂れるっ!!」




「ぶっ…(笑)そっ、そうですねっ…(笑)」




(くっそっー…)





『多分これであたしの株は急降下』




そう思ったあたしは、すかさず霧島君に先程の話題をもってきた。



「あの…それでさっきの話の続きなんだけど…」




「分かったっ」




「え?」




「竹内、どうせ『好きな人いるから無理』とかお決まり文句言うんでしょ?」




「……」




霧島君がジュースを一気飲みしながら話しを続ける。




「竹内、まだまだ俺の事知らないもんね…だからもっと知ってそれから返事頂戴?」




「ごめん、多分あたしは…」




「人の気持ちって、意外と簡単に変わるもんだよ?」




「……」




何も言えなかった。




尚太がそうだったから…




そしてあたしもそう




あれだけ尚太が好きだったはずなのに




尚太が他の女の子と歩いているのを見ただけですんなり絶ち切り、今は拓に想いを寄せている。





「今断わられても俺納得出来ないじゃん?竹内にまだ何もしてないのに」




「でも…」




「『でも』って言うな(笑)」




「あ、はい…」




「だからさぁ~!!」





霧島君が立ち上がり、突然あたしの手を引っ張って立ち上がらせた。





「竹内結芽にあげるっ!!」




「はっ!?な、何をっ…!?」




「こぉーんくらいの俺の好きをっ!!」





あたしの両手を掴み、霧島君は体全体を使って大きな円を描いた。




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