第三十五時限目

あたしはバックからマフラーを取り出し、首に巻こうとしたその時だった。




「結芽っ!」




拓のあたしを呼ぶ声が、降り始める雪の中に消えて行った。




あたしは、ゆっくりと後ろを向く。




「何?」




すると、拓はとんでもない事をやらかしてくれた。




「バカ結芽っ、見てろよ!」




「な゛っ…」




「うわっ…」




あたしの目の前には強引にキスをする拓と、それを避けきれなかった磯田君の姿。




勿論菜緒と桂太君も口をあんぐり。




あたしも体が固まり、唖然と男の子2人のキスシーンを眺めた。




掴んでいた磯田君の胸ぐらを離し、くっついていた口も自然と離れる。




拓は磯田君を睨みながらこう言った。




「あいつの代わりに俺がしてやったぞ、感謝しろっ!ちなみにファーストキスだっ」




そして、今度は我に返った桂太君が




「俺、磯田と友達辞める。菜緒の友達は俺の大事な友達だし…明日から話かけてこないでねっ」




最後に菜緒。





「磯田君、鏡見た事ある?外見も心も超ブサイクだよ!」



磯田君はベンチからバックを乱暴に取り、最初に入ってきた校門へと無言で歩き出した。



「あ、俺もお前と友達辞めっから~!まぁ今までもあんま仲良くなかったけど(笑)」




スタスタと去って行く磯田君に拓が最後の言葉を投げ、やがて磯田君の姿は見えなくなった。




雪は段々と本格的に降り始め、あたし達の頭に舞い降りる。




色々な事があったせいか、何となく体がダルイ。




『今日はもう遅いから続きは明日』との桂太君の提案で、ひとまずあたし達は解散する事になった。





外は真っ暗。




しかも、この小学校のあまり外灯が無い。




怖がりなあたしは小走りで校庭の中を走り、皆とは違う門を出た。




「あ…」




そこであたしは、1つ忘れ物を思い出す。




「自転車…カラオケの所に忘れて来ちゃった…」





駅まで引き返そうと、菜緒達を追いかけ始めた時。





「結芽っ!」




拓が1人であたしの元に走って来た。



「拓…?」




「桂太達が送れってうるせーから仕方なく来た」




「え…?だってあたしの家、ここから歩いてすぐだよ?」




「とにかく、今日だけ特別に送ってやるよっ」




拓がぶっきらぼうに言い、あたしの前を歩き出した。




(自転車どうしよう…鍵も掛けてないし…)



「あのね拓、あたしカラオケに自転車忘れて…」




拓がポケットからタバコを取り出し、火を付ける。




「知ってる、鍵掛けといてやっから明日の帰りにでも取りに行けば?」




「そうだね。じゃぁ明日はゆっくり徒歩で登校する」




そう言って、あたしは拓に自転車の鍵を預けた。




「んで?お前ん家は何処?」




「あれ?知らなかった?」




「知る訳ねーだろっ!」




「そうでした(笑)」




「お前、本当にアホだな」




「うひひ…(笑)」




あたしが拓の前に出て歩き出す。





(寒いな…)





あまりの寒さに身震いをするあたし。




すると突然あたしは拓に腕を掴まれた。

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