第三十六時限目

「わ…な、何!?」




「お前、具合悪いだろ」




拓があたしの額に手を当てる。




「俺の手、冷たすぎてよく分かんねぇ…」




「大丈夫だよ?」





本当は先程から急に寒気が始まった。





頭は痛いしだるいし…でも、これはただ今日の疲れから来るものだと考えていた。




「俺が喧嘩ふっかけてもお前反応悪いし、何かずっと前から立ってんの辛そうだったぞ?」




「今日色々あったから疲れたのかも(笑)」




「なら別にいーけど…」




「帰ろっ」




そう言って、あたし達は再び歩き出した。




あたしの家は、小学校から真っ直ぐ南に歩くだけ。




地面に落ちる雪はまだシャーベット状で、歩く度にルーズソックスに跳ね、そして水分を吸い込み更にあたしの足取りを重くしていた。




足を1歩出す事に、酷い頭痛があたしを襲う。




(しんどい…なんか気持ち悪くなってきた…)




拓の前を歩いていたはずなのに、あたしの足取りが遅いせいか、気付くと拓はあたしの横に並んでいた。



「あら…なんかシチュエーション的にカップルっぽくない?(笑)」



「お前さぁ…」




拓が溜め息をついた後あたしの手を掴んだ。




「わっ…」




あたしの手を引っ張り、そしてちゃんとあたしが無理なく歩ける程度の速さで拓は歩き出す。




「あ、ごめん…もしかして歩くの遅くてイライラした?」




あたしの手を握る拓の手の力が、一瞬痛い位に強くなった。




拓は歩くのを止め、手を繋いだままあたしの方を振り返る。




「約束っ!」




「へ?」




「1つ、辛い時は辛いって言え。2つ、意地張らねぇで素直になれっ!」




「は、はい…」




「お前具合悪いんだろ?」




「…うん」




立ち止まっていると、後ろから結構なスピードを出した車が走って来て、見事あたし達の横を走り去る際にシャーベット状の泥雪をかけて去って行った。



「冷た…」




「あのボロ車ぁ~!お前大丈夫かよ!?」




「大丈夫、既に降ってる雪で濡れてるし」





この道は車の通りが激しい。




ふと、あたしは車が通る事が出来ない、云わば秘密の抜け道を思い出し、そして丁度その道はあたしの家の目の前まで繋がっている為、あたし達は進路変更してその抜け道を帰る事にした。




周りはブロック塀で囲まれており、地面は砂利。




雪が降ってから誰も歩いていないのか、綺麗なシャーベット状の雪のままだった。




あたし達は相変わらず手を繋いだまま。




変わった事と言えば、前を歩いていた拓があたしの横を歩いてる事位。




「拓、帰りちゃんと迷わず帰れる?」




「こんなに簡単な道、じいさんでも帰れるっつーの」




「いや、拓頭悪いから…」




「頭の悪さの意味違うし」




「頭の悪さに違いあるの?(笑)」





あたしは笑いながら空を見上げた。





吸い込まれる様に降る雪…





「ねぇ拓?」




「ん?」



「拓はどの季節が1番好き?」




「んー…、夏かなぁ」




「何で?」




「寒くないから」




「なんじゃそりゃ(笑)」




「お前は?」




「あたしは冬だな~」



「理由は?」




「暑くないからっ!」



「お前もかよっ(笑)」



あたしの家まであともう少し。




今日は色んな意味で拓に助けられた。




カラオケで磯田君に引っ付かれていた時…




あたしの代わりに磯田君にキスしてくれた事…




そして、今こうしてあたしを家まで送ってくれてる事…





拓にしてみれば、単なる気まぐれなのかもしれない。





(普段は顔合わせれば喧嘩ばっかりだもんね…)





あたしは、さっき拓と約束した『意地を張らずに素直になる』と言う言葉を思い出した。




(素直に…か…)




あたしは歩くのを辞め、そしてそれに気付いた拓も立ち止まった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る