第三十七時限目
「どうした?」
「あの…」
「何だよ?」
拓が不思議そうにあたしの顔を見る。
「あ゛ー…」
「何っ(笑)気持ちわりぃのか?」
『大切な話をする時は、ちゃんと人の目を見ながら言う事』
8歳上の兄貴が常々あたしに言う言葉。
あたしは拓の目をしっかり見ながら言った。
「今日は色々ありがとう。あの…嬉しかったです…」
「は…?」
(う゛ぅ…恥ずかしいっ、やっぱり辞めればよかった…)
「もうここまででいいっ!あの灰色の家あたしの家だしっ。ありがとうっ」
繋いでいた手を離し、あたしは拓を置いて歩き出した。
抜け道はもうすぐ終わり。
あたしは頭の激痛を我慢し、足早に抜け道を出ようとした。
その時…
「おいっ!」
拓があたしの所に歩いて来た。
「何…?」
「お前、目が真っ赤!熱あんじゃねぇ?」
「え、嘘…」
あたしは右手を額に当てて確認する。
「熱あるかなぁ…?」
「自分じゃ分かんねぇだろ」
「そっか(笑)じゃ家帰ったら熱計ってみるね!」
「いいよ」
「え?」
「俺計ってやる」
「どうやっ…」
冬空の下、拓の額とあたしの額がぶつかった。
「ちょ、ちょっと拓っ!?」
あたしは思わず目を瞑ってしまう。
(わぁ~っ、目開けられないよ~)
拓の息があたしの顔に掛かる。
「あの…大丈夫だから、熱も無いでしょっ?」
目を開けられずに直立不動で固まったままのあたしに、拓がやっと口を開いた。
「嘘、ごめん」
「え?」
「目、開けて?」
あたしは額がくっついたままの状態で、少しずつ目を開けてみる。
(わ…)
そこにはどあっぷの拓の顔。
「なっ、何嘘ってっ!」
いつもの様にまたからかわれたと思い、あたしは強引に額を離そうとした。
「逃げんなよ」
本当に一瞬の出来事。
あたしはそのまま拓に頭を抑えられ
キスをした。
急な事で思考回路が止まるあたし。
やがて、あたしの口から拓の口が離れ…
「いきなりごめんな。」
そう言い残して拓は抜け道を走って戻って行った。
ボーッとしたまま家に着き、体温計で熱を計ると39度4分。
その夜。
お母さんが帰宅し、あたしは無理矢理夜間の病院に連れていかれ『インフルエンザ』と診断された。
病院から貰った薬を家に持って帰り、
「さっさと寝なさい」
とお母さんに怒鳴られ、ひとまずあたしは眠りについた。
次の朝。
勿論熱が下がる訳もなくあたしは学校を休んだ。
《結芽インフルエンザだって?大丈夫?ゆっくり寝てなよ!》
《菜緒ありがと~大丈夫だよ!》
熱があると分かると急に弱くなる性格のあたし。
フラフラの状態で、とりあえずそう菜緒にメールを返した。
「う゛ー…」
ボーッとすればする程、昨日の拓との出来事が頭をよぎる。
「わ゛ーっ!!」
(駄目だ…寝よ…)
悶々としながらなんとか眠りにつき、目が覚めたのは夕方。
寝汗が酷かったあたしは、着替えた後ポカリを取るために1階に降りた。
我が家の出窓の外は車庫になっていて、その横に道路がある。
「あ…」
その車庫と道路のギリギリの場所に、あたしの自転車が置いてあった。
「…拓??」
辺りを見回したが、拓らしき人はもういない。
(持ってきてくれたんだ…明日、気まずいけどちゃんとお礼言わなきゃ)
インフルエンザを甘く見ていたあたし。
次の日も熱は下がらず、結局合計1週間あたしは家で退屈な日々を過ごしていた。
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