第四十六時限目

「ここ座って」




駅から少し離れた、駐輪場の前にある花壇のブロック。




敦子先輩は、顎であたしにそこへ座る様指図した。




ブロックは、溶けた雪で濡れていて座った瞬間おしりに冷たい感触が伝わる。




あたしは、拓から借りたマフラーで震える口元を隠した。





「…そのマフラー拓のだよね?」





敦子先輩が目の前で仁王立ちしながら言った。




「あ…、うん」




「何で結芽がしてんの?」




「何でって…何ででしょう…」




「真面目に答えて」





投げ捨てる様な言い方に、あたしは怖くて敦子先輩の顔が見れない。




(拓から貸してくれたなんて言ったらあっちゃん爆発しちゃうよね…)





あたしは、被害が拓に行く事の無い様嘘を付いた。



「さっきあたしが無理矢理拓からぶんどったんです」




「ふぅ~ん…、で?今まで何してたの?」




「あたしの友達と、その彼氏と4人で遊んでました。友達の彼氏は拓の友達でもあるんで…」




(ヤバイ…あたし絶対瞳孔開いてそう…)




あたしは嘘を付くとき、必要以上に喋りまくるらしい。




前にそう菜緒から言われた事を思い出し、なるべく余計な事は言わない様にした。




「結芽さぁ、裏切る気?」




「え、何を…?」




「しらばっくれても無理。あたし知ってんだよ!?」




敦子先輩の声が荒くなる。




「コソコソ2人で会ってる事も、初詣2人で行った事もっ!あんたあたしの気持ち知りながら何やってんの?」



「コソコソなんかしてないよっ!初詣だってお互い暇だったからっ…」




「じゃぁ、あたしが電話した時何で2人して嘘付いたの?」




「それはっ…」






『あっちゃんを傷つけたくなかったから』




こんな言葉、『私は偽善者です』とでも宣言してるようなものだ。



でも、あたしは敦子先輩と拓の関係を邪魔するつもりは本当にない。




先輩がどれだけ拓を好きかあたしはよく知ってるつもり。




だから、先輩がこうしてあたしに怒るのも無理はない…




拓の事は勿論あたしだって大事。




だけど、あたしの中で先輩はもっと大事な存在…






あたしはある決断をした。





「じゃぁ…もう拓と話さない。こうして学校以外で会ったりもしない、だから…」




「だから何?」




「だから拓の事嫌いにならないで」




「……」






沈黙が続く。





きっと先輩は、あたしがこんな事を言うなんて予想してなかったんだろう。




拓と今までみたいに喧嘩したり、バカ笑いしたり出来なくなるのは勿論寂しい。




でも、そうさせてしまったのはあたしの無責任な行動の結果。





拓も先輩も悪くない。




「結芽はそれでいいの?」




「別に…会っても喧嘩してるだけだし…それにあたしバイトあるからあんまり部活に顔出せないし」




「拓は反対かもよ?」



ふと、さっきの出来事が頭をよぎる。




なんとなく気付き始めてる拓のあたしへの気持ち…





そして




ほんの少しだけ芽生え始めてるあたしの拓への想い。




きっと、これ以上一緒にいたらあたしは絶対拓を好きになる。





(今ならまだ、あたしはあっちゃんを応援出来る)






「大丈夫。あたし拓の事少しウザイなって思ってたし…今日だって友達いなきゃこんな所来てないし」




締め付けられる胸を堪え、あたしは敦子先輩の目を見て言った。




「それ、拓にも言える?」




「え…?」




「今から拓に同じ事言って。それなら信じられる」




あたしは駅に視線を移す。




磯田君の事で拓を巻き込み、そのせいで停学にまでさせてしまった。




あたしがこんなにバカなせいで、先輩を怒らせてしまった。




(あたし、きっと疫病神だ…)




手に力を込め、あたしは立ち上がった。



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