第四十五時限目
「いいって!拓しときなよっ」
「君、これ以上学校休んだら留年しちゃうよ?」
「たかだか1週間やそこらで留年する訳ないじゃんっ!」
「…俺が貸したいんだよっ!黙って借りとけっ!」
「だって…拓の方が風沢山当たって寒いのに…」
「だ―っ!!」
拓がそう叫ぶと、急に自転車を止めあたしの首にマフラーを巻いてくれた。
「約束っ!」
「え?何また急に」
暗闇の中、あたしは両方のほっぺをサンドイッチされながら
「1つ、人の好意は素直に受け取る事」
「でもっ…」
「2つ、少しは…俺に甘えろよ」
外灯の灯りだけで見える拓の視線は、しっかりとあたしだけを見ている。
「分かった?」
あたしは急に恥ずかしくなり、拓から目を反らした。
「何で下向くの?」
拓が両手であたしの顔を上げる。
「照れてんの?」
「こんな事されたら誰でも照れる!」
あたしは、拓から借りたマフラーで顔を隠した。
「マフラーありがと!あったかい…です」
「お?ちゃんとお礼言えたじゃん」
「子供扱いするなっ!」
あたしがマフラーから顔を出した時。
「でも、俺お前のそーゆう所すげぇ好きだよ」
2回目のキス。
「また急にしてごめん…でも今日は逃げないよ」
拓がそう言ってあたしを抱き締めた。
「さっきの話だけど、今度ゆっくり聞いて?」
「…うん」
「それと、1つだけ聞いてい?」
「…うん」
「キス…嫌だった?」
「……」
「正直に言って?」
磯田君にせがまれた時は、本当にあたしの全部が拒否反応を起こした。
でも拓は…
「ごめん、分かんない…だって拓急にするし…」
あたしは、思ったままの気持ちを拓に伝える。
「ごめん…」
「でも嫌じゃなかったかな…」
「え?」
「もう言わないっ!終わりっ!」
空に飛んでこの場から消えてしまいたい位の恥ずかしさが襲い、あたしは抱き締められている拓の体から勢いよく離れた。
「帰るっ!早く自転車こげっ!」
自転車の後ろにまたがり、準備万端のあたしを見て拓は
「はいはい(笑)」
と、苦笑しながらまた自転車をこぎ出した。
駅に着くと、あたしが乗る電車は出発したばかりらしく降りた人で一杯。
「すぐ来るからホームで待ってようぜ」
「うん」
帰りの切符を買い、降りた人達が改札を通り終わるのを待っていたその時…
「あれ?結芽?」
「あ、あっちゃん…」
敦子先輩が、驚いた様子であたしと拓を見た。
「何で結芽がここにいるの?」
「え…あ、あの…」
「しかも、なんで拓まで一緒に?」
言葉を失っているあたしに対して、敦子先輩の顔色が段々険しく変わっていく。
(マズイ…)
その時、拓が突然言った。
「俺が呼び出したんです」
「えっ、拓…」
「結芽に何の用事?」
「言わなきゃ駄目ですか?」
「ちょっと拓辞めてよっ!あっちゃん、あのねっ…」
あたしが、本当の理由を言おうとした時
「結芽、ちょっと来て」
敦子先輩が痛い位あたしの腕を引っ張り、外へと連れ出した。
「拓、結芽借りるから」
「先輩っ…」
「10分だけっ!」
拓を1人駅の中に残し、あたしは敦子先輩に連れられ駅の外へと向かった。
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