第二十二時限目

坂道を下るのは、足首に負担が掛り、捻挫している右足が痛む。




(家に帰ったら湿布貼ろ…)




誰も人気の無い道を、足を引きずりながら自転車を引く。




(今背後から襲われたら逃げれないな…あり得ないけど…)




そんなくだらない事を考えていたその時だった。





「遅せぇよ」





目の前には帰ったはずの拓の姿があった。




「え…?た、拓?」




坂道を下り、角を曲がった所に拓がしゃがみ込んでいた。




「何でいんの!?」




「いちゃ悪い?」




「だって怒って帰ったんじゃなかったの?」



「あれは…お前泣きそうだったから…」




「え?」




「人前で泣くの嫌なんだろ?だから1人にしてやったんだよっ」




この時、何故かあたしは素直に拓の気遣いを受け入れる事が出来た。




泣き足りなかったのだろうか…締まりが悪かったあたしの涙腺が一気に爆発した。




「わっ、おいっ!」




「拓、ごめんね…」




「何が?」




「菜緒が…桂太君と付き合う様になってからおかしくなっちゃって…」




「…は?」



拓が目を真ん丸にしてあたしを見る。




「え…知らないの?」



「あ?桂太って菜緒と付き合ってんの?」




「そうだよ!?何で拓知らないの?」




「だってあいつ彼女いんじゃん!」




「え?まだ別れてないの!?」




「別れるどころか毎日休み時間電話してんぜ?」




「何それ…」





桂太君への怒りは最高潮に達し、あたしは拓のブレザーのポケットから携帯を取り上げた。



「何する気だよっ」




「桂太君に文句言うっ」



「辞めとけっ!」





拓があたしから携帯を奪い、ズボンのポケットにしまい込む。




「何でっ!?」




「辞めとけ。2人の問題だろ?」




「菜緒は桂太君を信じてんだよ!?菜緒が可哀想っ…」




「桂太は…そんな軽い奴奴じゃねぇよ、多分…」




「桂太君をかばうの!?」




「桂太は俺の友達だぞ?友達を信じてやりたいって思って何が悪いんだよっ!」



「菜緒だってあたしの親友だよ!?遊ばれてるの見て見ぬ振りなんか出来ないよっ」




泣きじゃくるあたしを前に、拓は何も出来ずにただ立ち尽くす。




「明日桂太に聞いてみるからさ、今日はとりあえず落ち着けよ」




「…もういい」




「何がだよ?」




「拓には頼まないっ」




おえつを堪えながら、あたしは拓を見ずに続けた。




「菜緒はあたしが守るっ」




「だからさっ…」




「ムカつく…」




「え?」




「拓ムカつくっ、拓とはもう絶対喋んないっ!」




自転車に乗り、あたしは痛む右足を堪えこぎ出した。




「ちょっと待てよっ!何でそうなるんだよ!?」




拓の言葉を無視し、こぐ速度を早める。




「結芽っ!!」




(今日は何て最悪な日なんだろう…)




あたしを呼ぶ拓を残し、あたしは振り返る事無く家に帰った。



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