第二十一時限目

拓と目が合い、菜緒の件でイライラしていたあたしは思い切り目を反らしてしまった。




「おいっ、サボリ女っ!何シカトしてんだよ?」




「あ、拓いたの?」




「蟻じゃねーんだから普通気付くだろっ」




「そりゃ失礼。じゃっ」




言い合いすらしたくなかったあたしはスタスタと部室に入り、急いで胴着に着替えた。




やがて先生が来て、練習が始まる前にあたしは散々怒られ、更にやり場のない怒りが込み上げて来る。




練習中も最悪で、今までのサボリが原因か稽古中に右足を捻挫してしまった。




(いったぁ…)




「竹内、もう下がってろ」




「…はい」




他のみんなが一生懸命稽古する中、あたしは1人道場の隅で練習風景を眺めてるだけだった。





それから練習が終わり、あたしはあっちゃんと一緒に駅まで帰る事にした。




「結芽、足平気?」




「うん。サボってた結果がコレだね(笑)」



「みんな心配してたよ?」




「何か最近良い事無くてさ…スランプってやつ?」




「何かあったら言いなよ?聞くから」




「ありがとう」




帰り道、敦子先輩は今までの部活の状況を教えてくれた。




冬休みに入ったら他校と練習試合がある事や顧問の先生が来春今まで付き合ってた彼女と結婚する事、そして綾香先輩に社会人の彼氏が出来た事…。




「綾ちゃん…さっきあたしに何にも話てくれなかったぁ…」




「あんたの様子が変だったから言えなかったんだよ」




「あっちゃんは?拓とどうなの?」




「この前、一緒に帰った」




「おっ、上手く行ってるんじゃん」




「ううん、別れるまでずっと部活の話だけ…『先輩と後輩』って感じ」




「まぁ、まだまだこれからだからっ」




「そだねっ!」




駅に着き、先輩と別れ自転車に乗り帰ろうとした時…




バックの中で携帯の着信が鳴った。



あたしはディスプレイを確認。




(拓だ…)




「…拓?」




「もうそろそろ駅着いたかよ?」




「えっ?な、何で知ってんの?」




「今お前1人?」




「1人だけど…」




「この前の公園まで来れねぇ?」




「えー…、何で?」




「ちょっと話あっからさ、待ってっから来いよ!じゃぁなっ」




「おいっ!」





今日はもう家に帰り、ふて寝をする予定だった。





(んー…仕方ない、行くか)




ブツブツ文句を言いながら、あたしは拓が待つ公園へと向かった。




公園に到着し中に入ると、拓はブランコに乗りながらタバコを吸っていた。




「よぉ、さっきぶり」



「何?話って」




「ホレ、カルピスやるから隣り座れっ」




あたしは好物のカルピスに釣られ、拓の隣りのブランコに座り、カルピスを受け取った。



「で?話は?」




「お前、何で怒ってんの?」




「…別に」



「俺、お前に何かしたっけ?」




「してないんじゃないですか?」




「それに足…大丈夫かよ?」




「心配して頂かなくて結構です」




「何だお前?」




(あたし、何で拓にやつ当たりしてんだろ…あたし最悪…)




沈黙が続く中、突然拓がブランコから立ち上がり公園の出口へと歩き出した。




「ちょっと、どこ行くの?」




「帰る。お前俺がウザイんでしょ?」




「…別にそんな事…」



「悪かったな、わざわざ呼び戻して」




拓が怒った顔見るのは初めて。




あたしはしょうもない自分に腹が立ち、涙がこぼれた。




「拓っ、ごめん!」




でも、拓はそんなあたしの声に耳も貸さずに公園を出て行く。




(あたし本当に最低…拓全然悪くないじゃん…)




暫く堪え切れない涙を流し、頬の涙が渇いた頃…




あたしは1人で公園を出た。



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