第六十四時限目

「これっ!見たい!?」




ダンボールの蓋は軽く閉じられており、中が見えない。




「見たい…」




「じゃぁ、目瞑って両手出してっ」




「え、何?怖い…」




「大丈夫っ!ただしっかり支えてね!」




「分かった…」




言われた通り、あたしは目を瞑り両手を前に差し出す。




「絶対両手はそのままだよ?」




「うん」




「せ~のっ!」







フワッ……







「わっ!!」




「竹内ダメっ!落とさなさいでっ!」




「な、な、何これ!?」




毛糸みたいに柔らかくて、気持ちいい温かさ。




「目開けなよ(笑)」




「う~何か動いてる~」




怖くてなかなか目を開けないあたし。



「大丈夫(笑)多分竹内大好きだからっ。」




「ゲテモノ系は無理だよ!?」




「違う違う(笑)ホラ、目開けてっ!」




手に取った瞬間、小鳥のさえずりにさえ掻き消されてしまう様なか弱い鳴き声。




あたしは、両手にすっぽり収まってしまうその物体を一目見るため、恐る恐る目を開いた。








「わぁ―……」




「どぉ?感想は?」




「凄い可愛い…っ!!」




「でっしょ~?」




手のひらでプルプル震えてるもの。




「腰くだけた?(笑)」



「うん、くだけた(笑)」




それは、小さい小さい産まれたばかりの仔猫だった。




「これ、竹内に見せたかったんだ~」




「どうして?」




「だって動物好きでしょ?」



そう、あたしを含め我が家は動物大好き一家。




小さい頃から、兄貴が拾ってきた犬、ばあちゃんが手なずけた野良猫、そしてお母さんが衝動買いで購入してきたインコ等、本当に様々な動物を飼ってきた。





「あたし動物好きって霧島君に話した事あったっけ?」




「無いよ♪」




「何で知ってるの?」



「知ってた?俺の通学路が竹内ん家の前の道路だって。」




「そうなのっ!?」




確かに今こうして考えてみると、霧島君家から1本の道路を真っ直ぐ行けばあたしん家に繋がるし、そのまま学校にも行ける。





「前さ、多分野良猫だと思うんだけど、親猫とチビ猫に餌あげてなかった?」




「……あぁ…朝だよね?」




「うん、そしたら他の日には違う色の猫に餌あげててさ(笑)」




「あたしムツゴロウだから(笑)」



「それ見てて竹内はきっと動物好きなんだろうなって思った訳」




「動物だって野良だろうが何だろうが同じ生き物だからね。外で生きていく体力つけさせないと」




「俺もそう思う。この仔猫も、家の猫と手なずけた野良猫の間に出来た子供だから、結局その野良猫も家で買う事にしたし」




霧島君が、抱えていたダンボール箱を静かに地面に置いて蓋をあけた。




「うひゃ~っ、みんな模様が違う~可愛い~!」




ダンボール箱の中には、あたしが抱いている他に5匹の仔猫が寄り添う様な形で眠っていた。





「…本当はもう1匹いたんだ」




「誰かにあげたの?」



「ううん、ホラ家の庭って広いじゃん?だから野放しにしてたら…多分カラスかなんかだと思うんだけど持ってかれちゃったんだ」



「そんな…可哀想…」



人間が車にひかれたり誘拐されたりしたら、当たり前に大問題になりそしてその犯人は捕まる。




あたしは小さい頃から納得出来ない事があった。




何で人間は問題になるのに動物はただ死骸を処理して終わるだけなのか。




皆、同じ生き物。




たまに生後間もない赤ちゃんを置き去りにするニュースを見かけたりするけど、




あたしはそれと同じ位に、動物を捨てたり虐待したり平気で殺したりするのが許せなかった。






「そこで竹内にお願いがあるんだけど…」




「何?」




「1匹、貰ってくれない?」




「全然いいよっ♪」




「家の人は大丈夫なの?」




「大丈夫♪みんな動物好きだから。」




「マジ?良かった~家猫屋敷になる位凄い数いてさ…」



「アハハっ(笑)霧島君達が逆に飼われてたりして(笑)」




「いや、マジそうかも。家の猫態度デカイし…」




「いつ貰えるの?今日?」




「まだミルクしか飲めないからさ、普通に缶詰とか食べれる様になったら貰って?」




「別にあたしミルク飲ませるよ?」




「ダメ。俺がミルクあげたいのっ!」




1匹1匹、優しく撫でていく霧島君。




(親バカみたい…(笑)でも、優しい人なんだ…)





あたしは手のひらで蹲っている仔猫を、ゆっくりとダンボール箱の中いる兄弟の元へと返した。




「霧島君。」




「ん?」




「ありがとう、こんな可愛い仔猫見せてくれて。」




「俺の方こそ、貰ってくれてありがとね。」





張り詰めていた緊張が少しだけほぐれて行く。



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