第二十八時限目

「あ」




拓が外を見ながら声を出す。




「動物がいる!ちょっと来いよ!」




「動物?犬か猫でしょっ」




「いいからっ!」




重い腰を上げ、ベットの横にある小窓から外を覗いた。




「何処?あ、あの犬?」




「ううん、違う」




「猫?」




「違う」




「じゃぁ何?」




「狼」




(…酔ってんの?)




あたしはポカンと口をあけ、視線を外から拓へと移す。




「狼?ハスキー犬じゃなくて?」




「うん、狼」




「何処に?」




拓はひとさし指を自分に向け、ニンマリしながら言った。




「ここにっ!!」




「……」




意味が理解出来ず、あたしは拓の顔を見つめる。




「距離、縮めてみる?」




「へ!?」




少しづつ拓の顔が近づいて来る。




あたしは、ここでやっと拓の言っていた意味を理解する事が出来た。




「こらっ!酔っ払い!」




近付く拓の両ほっぺを思い切りつねる。



「い゛っ…痛いです…」




「何する気?」




「すいませんでした…」




ほっぺを擦りながら、拓はフロアへと移動する。




「拓、酔ってるの?」




「軽くね」




顔を両手で伏せながら拓が喋る。




「あ、でも別に酔った勢いじゃないから」




「え?」




「俺がどんな気持ちでお前といるか分かる?」




「いきなりどんなって言われても…」




「俺はなぁっ」




拓が顔を上げ、あたしを見た。




「な、何…」




「俺はなぁ…」




拓は髪を掻きむしりながら言った。




「俺はなぁ、お前の事苛めたくてしょうがねぇんだよっ!!」




「…は?」




本日、2度目の口をポカンとするあたし。




「何言ってんだ俺?」



「拓変態?」




「違うわっ!」




その辺に置いてあったクッションを顔面に投げられ、あたしは結局意味も分からずに『クッション投げ合戦』を拓と始めた。



午後5時過ぎ…




やっと桂太君と菜緒が帰って来た。




「たっだいま~」




部屋に入り、桂太君と菜緒があたし達を見て唖然。




「拓、お前等もしかして…」




手で口を押さえ、ニヤニヤする桂太君の変わりに菜緒が言う。




「愛を育んじゃった訳?」




髪はボサボサ、ベットは乱れて疲れ果てていたあたしと拓は、きっと誰が見てもそう思っただろう。




「いや、俺はそのつもりだったんだけどこいつが…」




「うるさい変態酔っ払いっ」




事の成り行きを桂太君と菜緒に全て話すと、2人は呆れ返っていた。



「せっかく計画練ってやったのに…」




「結芽もさ、もう少し大人になりなよ…」




「こんな色気もねぇ女、ムラムラすらしてこねぇ」




「あたしだって、あんたみたいなバカ願い下げっ!」




「このやろっ…」




「まぁまぁ…」




再び喧嘩になる所を苦笑いしながら桂太君が止めてくれた。



「お似合いだと思ったんだけどなぁ…なぁ?菜緒?」




「うん」




ここで、あたしは今日1番の目的を思い出した。




「あたし達の事なんかより、問題は桂太君達でしょ?」




「え?俺達?」




桂太君がビックリした顔であたしを見る。




「桂太君さ、彼女は菜緒1人?」




「勿論っ」




「嘘だ。本当はまだ連絡取ってるんでしょ?」




「連絡…?誰と?」




問い詰めるあたしを、菜緒が慌てて止めようとする。




「あのね結芽っ、最初桂太はあたしをからかってたみたいでねっ…」



「からかう…?」




すると、桂太君が何かを納得した様な顔で拓に質問した。





「拓…、お前誤解を解いとけって言ったよな?」




「今思い出した…すんません…」




「何…?どーゆう事?」





桂太君の話はこうだった。



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