第三十三時限目
「俺、ついていけないんですけど」
片足をテーブルに掛け、髪をいじりながら磯田君が言った。
「俺等はいつもこんな感じだけど?」
桂太君がタバコに火を付けながら言う。
「まぁいいや。結芽ちゃん、今から俺に時間くれない?」
(来たーっ!!)
磯田君に誘われ、桂太君を見ると桂太君は軽く頷いた。
(すぐ断って帰ればいいよね…)
「分かった」
こうしてあたしは4人を残し、磯田君とカラオケを出た。
駅から少し歩くと、あたしの通った小学校がある。
あたしは磯田君に連れられ、校庭にある緑色のベンチに腰を下ろした。
「結芽ちゃん寒くない?俺のポケット貸すよ?」
「ハハ…大丈夫です…」
まだ冬休みなのか、それとも始業式でみんな帰ってしまったのか…校庭には人1人いない。
どう考えても5人は軽く座れるだろうと思われる木のベンチに、カラオケの時と同様、磯田君はあたしにピッタリとくっついて座った。
(嫌だな…この雰囲気)
あたしは空気の重さに堪えきれず、ベンチから立ち上がろうとした時…
「好きだぁーっ!!」
「え゛ぇっ!?」
市内のど真ん中にある小学校の校庭で、磯田君は隣の県にまで聞こえそうな勢いで叫んだ。
(あり得ない…この人とことんあり得ない…)
引きまくるあたしを見て、磯田君が照れながら言う。
「スッキリした~」
(そりゃそうだろうよ…)
「磯田君、声大きいね…(笑)」
「こん位、結芽ちゃんが好きって証拠だよ?嬉しい?」
「ハハハ…(笑)」
あたしが照れてると勘違いした磯田君は、更に大胆な行動に出た。
「手、冷たい」
そう言って、あたしは手を繋がれる。
「大丈夫っ、あたし寒いの平気なんでっ!」
あたしは急いで手を離し、自分のコートのポケットに手を入れた。
「結芽ちゃん可愛い」
(もう帰りたいよー…)
苦笑いしか出来なくなってきていた頃、更なる事件が起きた。
「俺達付き合おう?」
何となく告白の仕方が両想いの設定になってる様な感じを受けながら、あたしは磯田君に返事をした。
「ごめんなさい…」
「何で?」
不思議な顔の磯田君。
「何でって…」
「拓が好きなの?」
「違うけど…」
「じゃぁいいじゃん」
桂太君の言ってた通り、磯田君はしつこい。
「付き合ってから俺の事好きになってもいいよ?」
「いや、それはちょっと…」
「俺、マジで好きなのっ!だからお願いっ!」
顔の前で両手を合わせ、頼み込む磯田君にあたしはさすがに困った。
「気持ちは嬉しいんだけど…多分付き合ってからも好きにはなれないと思うから…ごめんなさい」
「……」
(さすがに諦めたよね?)
夕方4時過ぎ…
辺りも真っ暗に近い。
実はかなり冷え性なあたしは、磯田君を帰る方向に促しさっさと帰ろうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます