第七十六時限目

「今…から…?」




「俺竹内ほっとけない。側にいてやりたいんだ」





1人でいるのが寂しいから…?





拓への想いが吹っ切れたから?





それとも




霧島君を好きになりかけてたから…?





「…行く」




「えっ?」




「霧島君ん家…行く」




霧島君があたしの頭を撫で、優しく笑う。




「じゃぁ行こう?」




「うん…」




恋ってこんなに辛かったんだ…




でも、それだけ拓が好きだったって証拠なんだよね…?




「竹内行くよ?」




「うん」




「少し飛ばすから…俺にちゃんと捕まってて?」




霧島君の細いウエストにあたしの両手を回す。




「走るよ!」




「うん!」




あと数時間もすれば学校に行く時間。




「竹内~!」




「ん?」




「今日はずっと2人でいよ~?」




本当に誰でも良かった訳じゃない。




霧島君だから素直に甘える事が出来たんだよ…?




「霧島君」




「何~?」




「ありがとう…」





真夜中。




ほとんど車も走らない道を、2人を乗せるバイクの音だけが街中にこだましていた。



「静かにね…っ」




「う、うん…」





霧島君の家に到着し、コソ泥みたいに背中を丸めて歩くあたし。




「部屋行く前に何か冷蔵庫から持ってく?」



「うん、お腹空いた。」




台所へ行き、冷蔵庫に入っていたおいなりさんと唐揚げ、ジュースを持ちいそいそと2階へ上がった。






「ここっ、入って!」



霧島君の部屋。




畳が敷きつめられていてとにかくやたら広い。




「ここで1人暮らしできるよね…?」




「冬は寒いよ~?それより食べようよっ。」



さっき持ってきた物や部屋にあったお菓子を頬張りながら、あたしは部屋中に目を通す。




突然来たのに、全然散らかってない。




「男の子なのに部屋綺麗だね。」




「俺ダメなんだよね、部屋汚いとイライラする。」




「珍しいね(笑)」




「俺みたいな男嫌?」



「嫌じゃないよ。」




「良かった―………あ、ちょっと待ってて!」






霧島君がそう言って隣りの空き部屋から持ってきた物…





「あっ!猫~っ!」




「眩しいみたいだから電気消すね!」




部屋の明かりを消し、テーブルの上の7色に光るライトを頼りに、あたしは貰う予定の子猫を探した。




「いたいた…おいで。」




色んな事を忘れさせてくれる様な、そんな癒しと温もりをくれるこの子。




「はぁ―…、猫といると眠くならない?」




「寝ていいよ(笑)」





これが自分ん家なら間違いなく爆睡してる。



でも…




「いや…いい…。」




「何で?」




「あたし寝相悪いし…」




「大丈夫(笑)俺なんかイビキかくしっ。」



「イビキなんて可愛いもんじゃん…あたしなんて…」




「まだあるの?」







さかのぼる事5年前…




小学校6年生の時。




既に恋に芽生えていたあたしには、同じクラスに両想いの男の子がいた。




それはそれは可愛い恋愛で




『何回目が合った』だの




『同じ消しゴム持ってる』だの




お互いに意識しすぎて会話すら出来ない、そんな両想いだった。





小学校6年生と言えば、1番の行事でもある修学旅行。




2泊3日、福島県の某有名な城や野口英世の記念館等を順に巡る旅。



あたしは楽しくて楽しくて仕方がなく、夜は興奮してまともに寝れなかった。





そして帰りのバス。




事件が起こった。




みんながバスガイドさんのクイズやカラオケで楽しんでいる中




あたしは1人爆睡をこいていた。





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