第七十七時限目
2時間の道のり。
あたしは1度も目覚める事なく無事小学校に着いた。
全校生徒が整列し、校長の挨拶を聞いていた時
「結芽ちゃん…っ」
バスの中で隣の席に座っていた初美ちゃんがあたしに話しかけてきた。
「どうしたの?」
「結芽ちゃん、バスの中で寝てたでしょ?」
「うん」
「みんな大爆笑だったよ?」
「何で?」
「結芽ちゃん、白眼向いて、しかも髪の毛ズレてたのっ!」
「え゛―――っ!!」
「水戸君、笑う事すらできなかったみたいだよ…」
水戸君とは、あたしの好きな男の子の名前。
あたしは後ろの方に並んでいる水戸君を見た。
(あ………)
あたしと目が合うなり、思いっ切りそっぽを向く水戸君。
「そんなぁ―………」
「ごめんね結芽ちゃん、起こせば良かったね…」
「白眼だなんて~しかも髪の毛ズレてるって何だよ―……」
「分からないけど、男子が皆『結芽の髪の毛ズレてる』って…確かにあたしから見ても…(笑)」
「………もういいよ…」
未だに『髪の毛ズレてた』理由が分からない。
ただ言える事は、両想いだった水戸君には振られ、次の日からのあたしのあだ名は『ズラ』。
だからあたしはこの事件があってから、寝顔は本当に気の許した友達か、それか友達が先に寝ついたのを確認してから自分も寝る様にしていた。
(嫌~絶対言えない…)
「あ、あたし歯ギシリするからさ、今夜は起きてるよ(笑)」
「無理しなくてもいいのに」
「霧島君こそ明日も学校なんだから寝なよ!」
「ん―…、寝れるかな(笑)」
「あたしの事タヌキの置物だと思ってさ!」
「それは無理(笑)でも…正直眠いから寝てい?」
「いいよっ!…あ、霧島君の携帯ってあたしと同じだよね?」
「うん」
「充電させてもらってもいい?」
「いいよ~」
自分のベットで寝ればいいのに、あたしに気を使ってか霧島君は畳の上で毛布を掛けゴロ寝してしまった。
「竹内もそのうち寝なよ?おやすみぃ~」
「はいはいおやすみ。」
もうすぐ日が昇る時間。
あたしは膝の上でか弱い寝息を立てている子猫を段ボールに戻し、壁に寄りかかりながら今日1日の事を振り返っていた。
『妊娠』
まだまだ先の様な話でも、女の子の体は生理が来ちゃえば妊娠が出来る体になる。
(あっちゃんが…妊娠…)
考えただけで泣きそうになる。
初めは拓の事なんか、本当に眼中になかった。
意地悪だし
エロイし
頭悪いし…
敦子先輩が拓を好きって知った時も心から応援したいって思った。
なのに、いつの間にかこんなにも拓を好きになって
結果、敦子先輩や拓を傷つけた。
自分が主人公だとばかり考えていた今回の恋。
でも
本当はただの脇役でしかなかったのかもしれない。
(よく考えれば、あたし部外者だよね…)
もう恋で傷付くのは嫌。
もう誰かを想って泣くのは嫌…
あたしは充電器から携帯を外し、メモリーから拓の名前を探した。
「あった…」
あたしの身勝手な考え。
少しでも拓と距離を置きたい
少しでも拓の事を忘れたい…
きっともう掛ける事のない番号
(この恋、いつまでも引きずってちゃいけない)
こんな事したって無意味な事は百も承知。
あたしは携帯から『松澤拓』の番号、履歴等を全部削除した。
(今日はもう考えるの辞めよ…)
日が昇り初めた頃、さすがのあたしも頭痛がして来た為、少しだけ横になる事にした。
(一応携帯のアラーム設定しとこうかな…)
設定時間は30分後。
(霧島君ん家の人達が起きる前に歩いて帰ろ…)
携帯を枕元に置き、借りた毛布を被って畳の上に横になろうとした時…
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