第三十一時限目

カラオケ屋に着き、あたしと菜緒は店員に指示された番号の部屋へと向かう。




「結芽何歌うの?」




「どうしようかな…菜緒は?」




「本見てから決めるっ」




部屋に向かう途中、あたしの耳にふと聞き覚えのある歌声が聞こえて来た。




「…あれ?」




「結芽どうしたの?」



「聞き覚えのある声が…」




その声が聞こえてくると思われる部屋を通り過ぎようとした時。







「ぬぉっ…!?」




「あ゛―っ!!」




たまに音程がズレる歌声、しかも歌う曲は必ず『金太の大冒険』…



「拓っ…いい加減歌う曲他のにしなよ…」




「いーんだよっ!俺の18番なんだからっ」



「18番って…自慢出来ないよ?」




後ろから桂太君も顔を出し、せっかくなので4人でカラオケを楽しむ事にした。




「拓、結芽ちゃん、カラオケ内では喧嘩中止ね!」




「「はい…」」




桂太君の隣に菜緒、拓の隣にはあたしが座り、カラオケスタート。




トップバッターはじゃんけんで負けたあたし。




あたしは唯一まともに歌えるJUDY&MARYの「そばかす」を歌った。



「ねっ!?結芽歌上手いでしょ?」




あたしが歌う中、菜緒が桂太君に言う。




「うん、上手い上手いっ」




褒められると歌えなくなるあたし。




結局、恥ずかしくなり途中で歌うのを辞めた。




席に着くあたしに、拓が鼻で笑いながら言った。




「俺の方が上手いな」



「あんたの金太の大冒険と比較する事自体が失礼っ」




「はいそこ、喧嘩禁止ね」




「「はい…」」




次に菜緒、桂太君、そして拓の『ハクション大魔王』を聞き終え、あたし達は一旦休憩をし、お菓子を食べながら話をする事にした。




「結芽ちゃん」





桂太君がタバコに火を付けながらあたしを呼ぶ。




「はい?」




「歌、好き?」




「好きだねぇ」




「じゃぁさ、バンド組まない?」




「バンド?」




「そう、バンド」




サラッと重大発言を言う桂太君にあたしはビックリ。




「え…バンドって、音楽部入れって事?」



「違う違う、ライブハウスとかでちゃんとやるバンドっ」




「えっ!無理無理っ」



「何で?いいじゃんやろうよ!ドラムとベースもいるし、ボーカルはギター兼俺やってたけど、結芽ちゃんに譲るっ」




実は憧れていた音楽の世界。兄貴が高校時代から今もバンドを組んでいて、1度ライブハウス見に行った時、大音量の中で思いっ切り歌える事が羨ましく思えた。




「楽しいよ!?どう?」




「…あたしでも出来る?」




「出来る出来る(笑)」



「歌詞覚えらんないかもしれないよ?」




「結芽ちゃんが好きなJUDY&MARYにすればいいよ」




「本当にいいの?」




「いいよっ!」




「…じゃぁやりたいっ!」





こうして、あたしは桂太君とバンドを組む事になった。





「結芽、頑張ってねっ!見に行くからっ」




「圭太っ、俺も混ぜろっ」




「お前入れたらバンド崩壊するわっ!」



「結芽ちゃんって、夜とか遅くても平気?」



「うん」




「練習とかさ、メンバーが社会人いるから大抵夜なんだよね~」




「大丈夫だよっ!」




「じゃぁ、今度皆に会わせるから」




「宜しくお願いしますっ!」




「話も決まったし、あたし歌おっかな~」




菜緒が本をめくり、歌を探す。




「あっ、あたし菜緒のCHARAが聞きたいっ!」




「いいよっ」




その時、テーブルの上に置いてある誰かの携帯が鳴った。




「誰?」




「あ、俺のだ」





桂太君が携帯を持って部屋を出る。




菜緒が歌い出し、サビに入った頃桂太君が戻って来た。




桂太君は自分の席へと戻らず、何故かあたしと拓の間へ座る。




「桂太っ、狭いって…」



「桂太君どうしたの?」



「今から磯田来るって」




「えっ、磯田君っ!?」




「こっからが重要…」



桂太君があたしと拓の肩に手を回し、中央へと近付かせた。





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