第九十五時限目
結局、拓と話し合うどころか反対に拓を怒らせてしまったあたしは仕方無く家へと戻った。
あたしと拓が部屋を出てから、すぐに帰ったのだろう
敦子先輩とあっくんの姿は無く、あたしは散らかった部屋を片付けた。
そして夜。
お母さんが仕事から帰り1人遅い夕食を食べてる中、あたしはさりげなくお父さんの事を聞いてみる事にした。
「ねぇお母さん」
「何?お金はダメあげないよ」
「いらないよ…」
「そういえば、あんたバイトは?最近行ってないんじゃない!?」
「え!?あ、そうだね…」
「やるならやる、辞めるなら辞めるでちゃんとしなさい。高校生でしょ?ケジメをきちんとつけなさい!」
(ケジメ…か…)
あたしは沢山曖昧にしてる事がある。
バイト
霧島君との関係
敦子先輩との友情
そして拓への想い。
平和でいたくて
誰かに文句を言ったり言われたり…
そんないざこざが嫌で、あたしはいつもごまかしたりヘラヘラ笑って来た。
でも
そんなあたしの性格がみんなに迷惑を掛け、巻き込んで拓を傷付た…
「バイトは…部活引退するまで辞める。」
「そうしなさい。中途半端はダメよ」
「…分かってるよ」
中々本題に入れないままお母さんの食事が済み、お母さんがソファーに横になった時
あたしが口を開く前にお母さんが口を開いた。
「結芽」
「ん?」
「今日、彼氏連れて来たんだって?」
「は!?彼氏っ!?」
「違うの?じいちゃんが言ってたから…」
確かにそう思われても当たり前
あたしが男の子を家に入れるのは拓が初めてだった。
「彼氏じゃないからっ!」
「いい子なんだってね?じいちゃんが人を褒めるなんて珍しいのよ?」
「…どうだろ…」
「それにほら、あの俳優さんに似てるって言ってた」
「誰?」
「ほら…あの~『不器用ですから』の人っ!」
「………高倉健っ!?」
あたしは思わず大爆笑してしまった。
(拓が…高倉健!?)
「似てないの!?」
「世代が違いすぎない?(笑)」
「あら、渋くて二枚目じゃなぁい!」
「まぁ…拓は誰に似てるって言われても喜びそうだけどね…」
(でも、なんだか嬉しいな…)
最近、嫌な事や落ち着かない事ばかりで正直ちょっとテンションが下がり気味だった。
でも、拓を褒められた事が
好きな人を褒められた事が、何だかくすぐったくて歯がゆく感じた。
「名前、拓君ってゆうの?」
「へ?あ、うんそうだよ~」
「名字は?」
「名字?松ざ…」
言い掛けた所で、あたしはハッとした。
お母さんには言えない
この人は勘が鋭い
『松澤』なんて名字を聞いたら
お父さんと離婚した原因になった女の人の名字をもし知っていたら
バレないにしろ、きっと嫌な思いをするかもしれない…
「松川…だったかな」
「何あんた、名字も知らないの?」
お母さんが呆れた様に苦笑する。
「高倉健があまりにも強すぎて、つい…」
(大丈夫だよね…?変じゃ無かったかな…)
「で?」
「はい?」
「好きなの?」
「高倉健?」
「違う(笑)拓君っ!」
お母さんはテレビの音量を下げ、ネイルアートされてある自分の爪をいじりながら言った。
「あんたが家に入れる位だから、それなりの存在なんでしょ?」
さすがに自分の娘の性格を知り尽くしている母親。
図星の言葉だけに、あたしは口を開けたまま黙ってしまった。
「好きなんでしょ(笑)もしかして片思い?」
「…分かんない」
「分かんないってゆう時は大抵当たりなのよね(笑)結芽は」
「そ、そうなのっ!?」
「そうだよ!小さい時からいつも都合悪くなると『分かんない』『知らない』ばっかり。状況によってはイライラするわ。」
「イライラするんかい…悪かったね…」
(ダメだこりゃ…今は聞けなさそう)
話しの主導権を持たれてしまい、お父さんの事を聞き出すのを諦めたあたしは出直す為にジュースを持って部屋に上がる事にした。
「お母さんも早くお風呂入って寝なよ?」
「久々に一緒に入る?」
「辞めとく。お母さんの裸見ると悲しくなるし。」
「何それ」
「過去と現在…みたいな」
「何言ってんのよっ!お母さんスタイルいい方なんだからっ!」
(まぁね…胸でかいしおしりプリプリしてるし…)
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