第五十九時限目

実は高い所が大の苦手。




小学生の時、休み時間にジャングルジムで遊んでいて足を滑らせ、てっぺんから地面に叩き落ちた事があった。



幸い特大タンコブ程度で済んだが、それ以来高い所に登ると足がすくみ、震えてしまう様になってしまった。






(下見なけりゃ大丈夫だよね。)




時間割を張る場所に教卓を持って行き、それを台代わりに登る。




(うわ…あたしこん位の高さもダメだ…。)



教卓の上に立った瞬間、もう前しか見れないあたし。




「ち、ちょっとっ、時間割よこしてっ。」




「自分の足下にあんじゃん。」




「いいからっ!テープもあたしの手に貼って!!」




右手のみを拓に差し出し、時間割とテープ4枚を受け取る。




「貼るのここ?」




「もうちょい左。」




「ここ?」




「もうちょい上。」



「はぁっ!?上っ??」




もう既に精一杯背伸びしてるあたし。




「去年と同じ場所に貼んねぇとダメだろ。」



(出た…拓の神経質…。)




「もうここでいいじゃんっ!!」




「ダメ。」




足が震え出す。




(このヤロ~っ、左向けば中庭が綺麗に見えるじゃんかよ~っ!)



窓から見える綺麗な中庭を目にした瞬間、一気に冷や汗が吹き出す。




(無理…怖い…)




こんなただ貼るだけの作業、1分もあれば出来るはず。




「こっ、ここでいい?」




壁にべったり引っ付きながら拓に聞く。




「いんじゃねーの?」



作業時間、推定1時間と15分。




やっと頼まれた仕事が終わった。




(はぁ…最後の作業が1番疲れた…。)




あたしの背後では、拓がせっせと片付けを始めている。



(さて、あたしはどうやって降りようか…)



『行きはよいよい帰りは怖い』




この歌ってこーゆう状況の時にも使えるのだろうか。





『普通に足曲げりゃいいじゃん』





きっと周りから見ればそう思うだろう。




勿論あたしもそう思う。




でも何故かそれが出来ない。




膝が固まって棒の様な足。




とりあえずあたしは、壁にべったり引っ付いている両手を、少しずつ下へ下へとずらしてみる事にした。







「あの。」







拓があたしの横で溜め息混じりに言う。




「教卓直してさっさと帰りたいんですけど。」




相変わらず抑揚の無い言い方。





「あたし直して帰るから先にどうぞ。」




「ってか、お前何してんの?」




「へ?」



「めっちゃへっぴり腰ですけど。」






そう。




既にあたしはオシリを後ろに突きだした形のみっともない姿だった。








「別にっ…、ってか早く帰れば!?サヨナラ~。」




恥ずかしさと、この程度の高さからもすんなり降りれない自分に苛立ち、ついまた拓に冷たい言い方をしてしまった。




(今の言い方、拓カチンと来たよね…?)




「あっそ、んじゃお先。」




拓は教室中に響き渡る程勢いよくドアを閉め帰って行った。





(せっかく他人から知人位に昇格したのに…あたしのアホ…)




自分のあまりのガキっぽさにうんざりしながらも、なんとか下を見ずに降りようと必死になっていた時。



ガラ………ッ





「あれ?何してんの?」





「霧島君…っ。」





霧島伸斗キリシマシント




1年の時同じクラスで今回、2年生でも同じクラスメイト。




サッカー部所属で、4組では珍しい黒髪の1人。




背はそんな大きくないが、凄くまつ毛が長くて笑うとえくぼが出る、まるで女の子みたいに可愛い顔をした男の子だ。








「そのカッコ…ウケる(笑)」




「ちょっとっ、見るなっ!」




「ってかパンツ見えそ(笑)」




「え、ウソっ!」




あたしの真下にいる霧島君が、ニヤニヤしながら腰を屈めていた。



「離れろっ!あっち行ってよっ。」




「竹内、膝笑ってるよ?降りれないの?」




霧島君が両手を頭の後ろに組みながらあたしの顔を覗く。



「大丈夫、1人で降りれるから…。」




「その割には体固まってるけど?」




「最近柔軟体操してないからかな…。」




「なんだそれ(笑)」






フッと笑った霧島君が、急に何処からか椅子を持ってきて教卓の真横にぴったりと付けた。





「…?何?」




「竹内何キロ?」




「それセクハラだよ?」




「50キロある?」




「そこまでは無いけど…。」




「じゃ大丈夫。」





椅子の上に登り出す霧島君。




そして………





「よっ。」




「ちょ…ちょっと…っ!!」





教卓の上にいるあたしの手を引っ張り、そのまま抱き締めた状態で床へと降ろしてくれた。





「はい終わりっ♪ちょっと重かったかな。」



「…今の何…?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る