第三十九時限目
「桂太君、目は覚めた?」
「うん、もうバッチリッ」
笑いながらも、あたしの視線は桂太君のクラスの中。
何度確認しても、やっぱり拓の姿は見当たらない。
(拓が学校休むなんて珍しいかも…)
そんなあたしの心中を察したかの様に、菜緒が桂太君に聞いた。
「今日拓休み?」
「あれ?知らないの?」
あたしと菜緒が顔を見合わせる。
「あいつ、昨日大変な事あってさ」
「え!?どうしたの?」
菜緒が桂太君に聞くと、桂太君は菜緒の耳元でヒソヒソ話を始めた。
「えーっ!大変じゃん!!」
菜緒が急に大きな声で叫んだ。
「何?あたしにも教えて!」
「結芽ちゃんは駄目」
「え~!?何で?」
「拓に結芽ちゃんには言わない様口止めされてんだよね…」
桂太君が申し訳なさそうにあたしに言った。
「結芽、知りたい?」
「そりゃ知りたいよ」
「心配?」
「だって、大変なんでしょ?心配もするよ…」
タイミング悪く、そこでチャイムが鳴ってしまい話しは終了。
「菜緒、結芽ちゃんに言うなよっ」
「分かった」
(何なの?何で教えてくれないの?)
「ちょっと菜緒っ、教えてっ!」
「あたしも教えてあげたいんだけど…拓がかわいそうだから…」
「かわいそう…?」
「そんなに心配ならメールしてみれば?」
「…うん」
2人の深刻そうな顔を見て、拓の事が不安になったあたしは早速拓にメールを打った。
《今日どうしたの?》
5時間目の授業中に送信したのに、結局6時間目が終了しても拓からメールが返ってくる事は無かった。
(一体どうしたんだろう…)
その後、いくら菜緒に聞いても教えてはくれず、あたしは気になってるまま放課後を迎え部活に行った。
道場に入ると、珍しく顧問がすでに来ており男子部長と女子部長の3人で何やら大事な話しをしていた。
(何だろ…あたし何もしてないよね…?)
あたしは恐る恐る顧問に声を掛けてみた。
「お久しぶりです…」
「おっ、竹内。具合大丈夫か?」
「はい、もうすっかり…何かあったんですか?」
「あ?お前知らないのか?」
「え?何がですか?」
「松澤、タバコで停学になったんだ」
(まつざわ?松澤…松澤…)
うちの剣道部には、似たような苗字が3人いる。
しかも余程の事がない限り、皆名前で呼びあっている為たまに苗字で言われると誰がどれだか分からない。
(梅澤は先輩で、澤口は…あれ?澤口なんていたっけ?)
ちんぷんかんぷんで、いまいち事の重大さに気付いていないあたしに先生が呆れながら言った。
「お前しっかりしろよ…拓だよ、松澤拓っ!」
(タク…たく…)
「え゛ぇーっ!!拓が!?」
「朝のホームルームで名前は伏せてだけど、担任が言ってなかったか?」
「すいません…景色眺めてました…」
男子の部長が続いて言う。
「ってかさ、1年ってタバコで停学多くね?」
「すいません…」
(何であたしが謝ってんだろ…)
「とにかく、松澤が停学解けるまでは部活も休むから。竹内、もう帰っていいぞ」
「あ、はい」
(あのバカっ!あんなに注意してたのにっ!)
あたしは道場を出て、そのまま音楽室へと向かった。
渡り廊下を抜け、あまり陽の当たらない別館の3階にある音楽室。
あたしはメールで桂太君を呼び出し、音楽室付近は騒がしくゆっくり話が出来なかったので、同じ建物の1階にある図書室へ行く事にした。
図書室に入り、あたしと桂太君は部屋の隅で踏み台を椅子代わりに座る。
「何で教えてくれなかったの?」
あたしは桂太君に詰め寄る。
「あら、菜緒喋っちゃったの?」
「今、部活に顔出したら顧問が言ってた」
あたしが顔をしかめると、桂太君は頭を掻き、罰が悪そうに口を開いた。
「結芽ちゃん、キレちゃ駄目だからね?」
「もうキレてるっ!あのバカ拓っ」
「いや、拓じゃなくてさ…」
「え?違うの?」
「あれ?」
話が噛み合っていない事に気付き、あたし達は顔を見合わせた。
「あれ?停学したのは拓だよね?」
「うん」
「拓にキレないで誰にキレるの?」
桂太君がしまったと言わんばかりに、顔を両手で塞ぐ。
「桂太君…?」
「拓が停学になった理由って、結芽ちゃん知らないの?」
「理由?タバコでしょ!?」
「いや、タバコが見つかった理由」
「普通に先生に見つかったんじゃないの?」
「はぁー…」
「違うの…?」
「あのね結芽ちゃん…」
自分で墓穴を掘ってしまった桂太君は、あたしに3つの条件付きで拓の停学の理由を教えてくれた。
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