第十七時限目
「あぁ、でも走んねぇと間に合わなねぇから次ので帰る」
駅の中は降りてきた人で一杯。
「じゃあ、次の電車来るまであたしも待ってるっ」
「え、いーって!お前は帰れ」
「別に暇だし。人間観察~」
そして、あたしと拓は駅の中の椅子に腰を下ろした。
相変わらず駅の中や外は、迎えの車や電車待ち、降りた人でごった返している。
(香水って色んな種類が混ざると悪臭になるな…)
あたしは鼻を手で覆い、改札を出入りする人達を観察していたその時…
「あ…」
あたしは一瞬目を疑った。
「何、どうした?」
「ん?あ、何でも無い…」
いつぶりに見ただろう。
尚太が改札から出てきた。
あたしは自然と尚太に釘付けになる。
そんなあたしの視線に気付いたのか、尚太もあたしの存在に気付き、目が合った。
(どうしよう…話し掛けてみようかな…)
あたしが迷っている内に、尚太は駅と繋がっているコンビニに入って行ってしまった。
「知り合い?」
拓があたしのホッペタをつっつきながら言う。
「あの人だよ、さっき言った人…」
「忘れられない人?」
「うん…」
「…話し掛けてくれば?」
「あたしの事覚えてるかな?」
「さぁ…覚えてんじゃねーの?」
「…行ってみよっかな…」
あたしは拓に背中を押され、コンビニの中に入ろうとした時だった。
尚太がコンビニから同じ制服の女の子と手を繋いで出てきたのだった。
(あれ…?)
その子はあたしも知ってる女の子で同じ中学の同級生。
あたしは急いで目を背け、わざと気付かないふりをした。
「ねぇ、もう行った?」
尚太が居なくなったかを拓に確認してもらう。
「はい、姿形ありません」
「ハハ…彼女いちゃったね~」
「でも、あいつお前の事見てたぞ?」
「拓の事…彼氏だと思っただろうね(笑)」
「まぁ…普通そう思うだろうな」
ずっと忘れられなかったのに
1日に1回は考えてたのに…
尚太はもうあたしの事なんか綺麗に忘れてたんだね?
あたしだけが
あたしだけが止まったままだったんだね…
悲しいやら悔しいやらで、あたしの目には涙が溢れる。
拓がそれに気付いたのか、急いであたしの手を取り駅の外へと連れ出してくれた。
「あのさ…お前…」
「言っとくけど泣いてないからねっ、泣きそうになっただけっ!」
「…はいはい」
人通りの少ない細道に入り、あたしは精一杯泣くのを堪える。
「お前も女の子なんだね~」
「うるさいっ」
すると、突然拓があたしの両耳を引っ張ってきた。
「いたっ!」
「いいか?多分一生言わないから耳かっぽじってよく聞けっ!」
拓があたしの顔を見つめる。
「何急にっ…」
「結芽は可愛いんだからその気になりゃ彼氏なんかすぐ出来るっ!だからもう泣くなっ」
あたしはビックリした。
いつも意地悪な拓が、そんな優しい言葉をあたしに言ったのは今まで無かった。
そして
こんな至近距離に男の子の顔があるのも初めてだったあたしは、相手が拓であるにも関わらず心臓が高鳴ってしまった。
あまりの驚きに、鼻水が垂れているのにも気付かず拓に大爆笑されたあたし。
「ちゃんと聞いてたかよ?」
「うん…あ、ありがと」
「いいえ、鼻垂れ女さん(笑)」
「しょうがないじゃんっ、人間なんだから!」
そんな話をしながら駅に戻ると、拓の乗る電車が入るアナウンスが流れた。
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