第119話 神様に喧嘩売ってきます!

「ねぇ、てか。これってちゃんとできてるかって感覚で分かるのかな? 」

「ん? それはどういう? 」

「いや、魔法ちゃんと発動できてるかって、攻撃されなきゃ分からない気がしてさ」

「あー。普通は魔力を消費するので、魔力の流れで分かるのですが、アオイ君には少し難しいことかも知れませんね……」


 あっ……。普通は分かるんだ……。

 でも、魔力の流れを感じ取れない僕にはそれは無理なことなのだろう。

 はぁ……。やはり、事前の練習は無理なのだろうか。


「葵。心配しなくても大丈夫よ。私が詠唱したって思ったら、すぐにビンタしてあげるから」

「確かに。それなら良いですね! 」

「どこがだよ! って言いたいけど、まぁ、それなりに効果的なのか……。痛みが分かれば良いから、本気でやんなくて良いからね。分かった? 大丈夫? 」

「大丈夫大丈夫! ほら、早くやらないと悪神が来ちゃうわよ」


 大丈夫という言葉は重ねると急に安心感がなくなるものなのだ。

 本当に大丈夫なのだろうか。


「ほんとにお願いだからね。それじゃあ、いくね」


 ――僕は心を落ち着かせ、体の中に流れる魔力をほんのすこしだけだが、感じ取った。

 この魔力を体の外に流すイメージだ。

 外に流し、自分の体全体の表面を覆うように魔力を塗りたくる。

 ハンドクリームを塗るようなイメージに、魔力を……。


無秩序の防衛カオス・アミナ! 」

「――ぇ?私の手が……。 これが……? 葵、できてるっぽいっから、早く魔法を……」


 お! これでいいんだ。

 よし、魔法を止めよう。

 止めるときは、今体の外に放出している魔力を体の中に吸い込むのだ。

 本には空気をめいいっぱいに吸うイメージでやれば良いと書いてあった。


「――すぅ! りえ、これで……」


-――パン!


「――ファッ!? イタッ!」

「やっぱ、これが普通よね。ってことは本当に魔法使えてたのね」


 りえが思いっきりビンタしてきた。 

 ほっぺたがヒリヒリする。

 やっぱ、手加減という言葉を知らないのではないだろうか。

 本当に痛い。


「いタタタァ……。ねぇ、魔法を使うのをやめた後にビンタする必要ってあったの? 」

「え? だって魔法止めた後にもビンタしなきゃ、ちゃんと魔法を止められているか分かんないじゃない」

「悔しいが、最もな意見だ。なにも間違ったことは行っていない。これを攻めては、僕が間違っている方になりかねない」

「にしてもあの魔法なんだか不思議ね。防御されてるってより、葵をいない存在にしてるみたいで……。私の手が葵の中に入っていくというか。葵だけを別の次元の存在に変えてるようなっていうか……とにかくよく分からない感覚だったわ」


 ――おそらくそれが、攻撃を異空間が喰うということ、そう攻撃を無効化するということなのだろう。

 ちゃんとりえの攻撃を無効化できたようなので、一安心だ。

 おそらく、これで悪神の攻撃も防げるだろう。

 あとは、魔力だけだ。

 カオス様は前に回数を数えながら、魔法を放つと良いとおしえてくれた。

 そして、それを忠実にやってきたわけだが、この魔法だけは例外なのだ。

 時間によって使う魔力が異なる訳で、回数で残りの自分の魔力量を量ることはできないだろう。

 もうすでにあと何回なら魔法を放って良いのか分からなくなってしまった。

 できるだけ魔法は使わないように心がけるとするか。


「まぁ、これで悪神と戦う準備はできたってことになるけど、最終確認だけさせてほしい。五大神をなんとかするのは僕がかってに女神様と結んだ約束によるものだ。二人は僕に無理して付き合う必要なんてない。こんなこと言いたくないけど、場合によっては命がけの戦闘にだってなるかもしれない。それでも本当に戦いにいくってことでいいのか? 」


 僕はずっと伝えたかったことを伝えた。

 五大神をなんとかするというのは僕が勝手に女神様と交わした約束によるものなのだ。

 それに、今ニュクスとやらがこっちに来ているのだって僕のせいなのだ。

 二人はそんな僕に付き合う必要なんてどこにもないのだ。

 それも、命をかけてまでも……。

 これだけは戦う前に聞いておきたかったのだ。


「どうせ葵のことだし、そういうこと言ってくるんだろうなって思ってたけど、やっぱりね。はぁ……。今更、何を言ってるのよ。五大神の件は葵だけじゃなく、私も一緒に決めたことよ。それを投げ出すなんてまずあり得ないし、それにあなたって頑固じゃん」


 今は、ものすごく良い空気なのに、そんな空気を一瞬にしてぶち壊すような単語が聞こえた。

 頑固? いや、そうですけど。そうなんですけど、なんで今?


「頑固ですけど、それが何か? 」

「葵って頑固だから、一度決めたことは絶対に覆さないじゃない。周りが何を言ったとしても、どうせ葵はカオスとの約束を叶えようとするでしょ。あなた一人じゃ無理なのにさ。だからこそ、私が保護してあげなくちゃでしょ」


 ちょくちょく僕をからかうような単語が聞こえたが、これはりえの本心なんだろう。

 確かに僕はなにがあっても女神様との約束を叶えようとするだろう。

 僕の実力はそれに不相応だというのにだ。 

 そんな僕のめんどくさい性質をしっかりと理解した上で、こうやって言ってくれているのだろう。

 やっぱ、りえは優しいな。


「私ももちろん、アオイ君とエマについて行きますよ。私は好奇心旺盛なので、二人についていって見える景色すべてが新鮮で大好きなんですよ。だから、これからも是非よろしくお願いしますね」


 シンプルだが、普通にうれしい言葉だ。

 うちらと一緒にいて見れる景色が好きなのか。

 ……うれしい。


「そっか。これからも頼りにしてるから、よろしくな」

「こちらこそです」

「えぇ。みんなでこれからもね! 」

「あぁ! これまでも、これからも、永遠にだ! 」


 ――拝啓お母さんへ。

 今からあなたの息子は、神様に喧嘩売ってきます!

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