第96話 国王への説明
「
――魔法を詠唱すると周囲が一瞬暗転し、気がつくと先ほどまでイメージしていた懐かしの王城の前に立っていた。
それも、りえとエマの手首をしっかりと握った状態で。
「これはどうやら成功したようですね」
「えぇ。そうね。やったわね、葵! 」
「あぁ。さすがは僕だな! 」
――いやぁ……。
意外とできるもんなんだな。
我ながら、結構成長が早い気がする。
「はいはい。凄いですね、葵……」
「凄い棒読みですね、りえさん」
「ふふっ、でしょ」
「うふふ。……やはりお二人は面白いですね」
――エマが僕とりえの何気ない会話を聞いて楽しそうに笑った。
この笑顔を見ていると、エマをおいていくのは本当に心が痛む。
かといっても、それの打開策は他にもないのでしょうがないと言えばしょうがないのだが……。
「――おや、姫様。それにアオイ殿とリエ殿ではないですか。どうでしたか? 目的は達成できたのですか? 」
「誰かと思えば、爺やではないですか。ただいまです」
「師匠じゃないですか。お久しぶりです」
「あら、
どうやら師匠はこの城に最初に来たときのように門番のような感じで門の前で見張りのような仕事をしていたらしい。
師匠の仕事は剣術指南役である。
とはいっても明確な仕事があるわけではなく、国王や王女であるエマの護衛のようなものだという。
この国にも軍は存在するので、その指導とかをやってそうなものなのだが、全く関係ないらしい。
ほとんどエマの専属の護衛のようなものっぽいのだ。
そのため、エマがいないときは、暇つぶしのような感じに門番のようなことをしているのらしい。
門番のようなことをしているからこそ、僕たちの到着にいち早く気づいてこっちにかけよってきたのだろう。
「――いい加減、名前くらい覚えてほしいのですがね……」
「ん? なんか言った?
「――はぁ……。いえ、何でもないです。それより、国王陛下様から、皆様方が帰還した際は成果を聞かせに来てほしいと伝えるよう言付かっています。ぜひ、国王陛下様にお教えに行ってください」
「そうですね。あの件について、父上にも伝えるべきだと思いますので、このままお父様のもとに行きましょうか」
確かに、これだけよくしてもらっているというのに急にもとの世界に戻るというのは違う気がする。
……ん? ちょっと待てよ。
そういえば、国王とはある約束をしていた。
それは、僕たちが勇者となったときのことだ。
勇者となる代わりにエマを守るということを約束したのだった。
そんなことを約束した相手に、そのエマを置いていこうとしていることを今から伝えに行こうとしているのだ。
もちろん、僕はエマをこれから気にかけていくし、守ってみせると心の底から思っている。
だが、そう思っているかどうかなんて他人からしたら分からない。
思考が読めないなら、人は行動から人の思考を予想する。
そして、人間の悪いところではあるが、人という生物は最低の想定をして生きる。
今回の場合なら、僕がエマのことを捨てたのだと受け取られたとしても何ら不思議ではない。
とはいっても伝えないと言うことは無理だし、他に名案があるわけでもない。
ここは覚悟を決めるしかあるまい。
「た、確かに、それもそうだな……」
「えぇ、お世話になっているんだから当然よね。行きましょうか」
こうして僕は、不安を拭いきれぬままにエマに案内について行き、国王と久しぶりの対面を果たした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます