第33話 分からないからこそ、世界は美しくなる
「ふふっ」
「うふふっ」
――僕とりえは、学校では決して見せなかったであろう無邪気な姿を見て、僕は顔を片手で覆い被せながら、りえは口元を片手で隠しながらつい笑ってしまった。
恥ずかしいはずなのに、なぜだろう。
この笑い合っている瞬間が楽しいと感じるのだ。
ずっとこの一時が続いてくれれば良いのにとさえ思ってしまう。
しかし、一時は一時だからこそ良いのだ。
この楽しい一時だろうと、もし永遠に続けばいつか嫌気がさすだろう。
――何が起こるか分からないからこそ、世界は美しくなるのだ。
だからこそ、この楽しい瞬間にさよならを言い、僕は前へ歩く。
「――あぁ。そういえばですけど、ハンネスさんは結局これでよかったんですか」
「負けを認めるのは嫌ですが、約束は約束ですからね」
あ、そっか。
今の言い方だと、そう捉えちゃうよな。
「あ、そうじゃなくて、僕たちの本質を模擬戦で知りたいみたいなことを言ってたじゃないですか。それって結局できたのかな? って」
そう。
そもそもの問題、この模擬戦を行う理由は僕たちの本質をハンネスさんが知るためなのだ。
あんな模擬戦で本当に本質を知ることはできたのだろうか。
それが分かったところで何かあるわけでもないが、一応聞いてみることにした。
「うむ。確かにあなた方の本質すべてを知ることはまだできていませんので、この模擬戦を行った本来の目的は達成できていないといえるでしょう」
まあ。そりゃそうだ。
りえはともかく、僕に関してはこの模擬戦で大切なところを攻撃され、最後に少々卑怯なやり方で攻撃を当てたぐらいしかしていない。
これではとてもじゃないが本質など分からないだろう。
分かることと言えば僕、ついでにりえの性格が少々ひねくれていることぐらいだろう。
「――しかし、あなた方二人の先ほどの笑い合う姿を見て、悪意を持っているなどと疑う人など一人としていないでしょう。なので私はアオイ殿、そしてリエ殿を信じるます」
「笑い合う姿って……さっきの!? 」
りえが
信じてくれるのはうれしいが、模擬戦をした意味がなかったようにも感じる。
まぁ、僕はほとんど何もしてないのだけど……。
とは言っても、ある意味一番の被害者は僕でもあるので文句を言う権利は僕にもある。
そう思って、文句言おうとしたその時、遠くから見覚えのある二人が走ってくるのが見えた。
「こ、国王陛下様、それに姫様!? 」
ハンネスさんがこう言うのなら、あのものすごい早さでこっちに向かってきているのは国王とエマの二人なのだろう。
「国王陛下様に姫様まで……。ど、どうかなされたのですか?」
「爺やには私から話があります。ずいぶんと楽しそうなことをしていたようですね。私も誘ってほしかったのですが……」
うっわ。怖! いつもはあんなに優しいのに起こると怖いんだな、エマ。気を付けよ。
「そ、それには重大な理由がありましてですな、姫様」
「あとで詳しく教えてくださいね。なぜ私をのけ者にしたのか。ここではアレですので、向こうに行きますか」
「の、のけ者にしたわけでは……」
「良いから行きますよ、爺や! 」
そういうと、エマは諦めたハンネスさんをつれてどこかに行ってしまった。
この城を半壊させる恐れのあるエマを模擬戦に参加させるわけにはいかないだろうし、これはハンネスさんに同情するな。
一体つれてかれて何をされるのだろうか。想像するだけで恐ろしい。
「はぁはぁはぁ……。アオイ殿、リエ殿。はぁはぁ……。エマから事情は聞いたぞ」
事情? 事情って何だろう……。あ!
もしかして、僕とりえがこの世界とは別の世界から来たことについてだろうか。
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