第34話 ゆ、勇者!?

「はぁはぁ……二人はこの世界とは別の世界から来たそうでは、はぁはぁ……ないか」


 やっぱそうだった。

 それにしても息切れしすぎではないだろうか。

 一体どれほど走ったのだろうか。

 それともいつも動いていないため体力の消耗が激しいのだろうか。

 まぁ、お腹を見れば大体分かるのだが……


「その通りよ、それがどうかしたの? 」


 うっわ。すご!

 危うくスルーしてしまいそうになるくらいスムーズだったが、どう考えても国王に対する言葉遣いではないだろう。

 やっぱりりえは抜けてるんだよな。

 学校の先生にはしっかり敬語使ってるのに、学校の日ではないバリバリの階級社会だと思われるこの世界で、しかもその階級社会のトップである国王には敬語を使わないって意味が分からない。

 まあ、国王が気にしてないようだから良いんだけど……。


「はぁはぁ……どうかしたの? ではないぞ。……他の世界への移動とは、六柱の最上位の神々の中でもたった一柱でしかできない御業といわれているじゃぞ、はぁはぁ……」

「へぇ、そうだったんですね。六柱の最上位の神々か……」


 国王がなぜこれほど取り乱しているのかが分からない。

 さしずめ、僕とりえをその最上位の神々だと勘違いしていると言ったところだろう。

 しかし、僕やりえが他の世界への移動できる力を持っていると言うより、おそらくその力を使えるという六柱の最上位の神々一柱が僕の探し求める女神様の正体で、その女神様の力によってこの世界に来たと考えるのが妥当だろう。

 それにしても最上位の神々一柱か……。

 やはり女神様は凄いな。


「ふーん。そうなんだね。それで、どうかしたの? 先に言っとくけど、私たちは神様なんかじゃないからね」

「はぁはぁ……。いやそうじゃなく、二人がものすごい力を持っているのではと思ってな。あくまでワシの推察じゃが、二人をこの世界に呼んだ女神様というのは、おそらく六柱の最上位の神々の一柱だと思うのじゃ。そのような存在に命を救われると言うことはそれなりの理由があるということでもある。はぁはぁ……。もしそうだとすれば、勇者となっていただきたいと思ってな」


 やっぱり女神様は六柱の最上位の神々の一柱だったのか。

 女神様の正体に一歩近づけたな。

 とは言っても、最上位の神というだけあってお会いするのは困難を極めるだろう。

 しかし、それくらいの困難は、僕たちにしてくださったことに比べれば安いものだ。

 それにしても、やはり僕たちは凄い力を持っていたんだな。

 『勇者になっていただきたい』か……。

 

 ん、ん?

 勇者? ……勇者……。

 今確かに勇者と言ったよな。

 いや、聞き間違いに決まっているな。

 

 うん。気づかなかったが大分疲れがたまっているんだろう。

 波瀾万丈はらんばんじょうすぎる二日間だったので、幻聴げんちょうが聞こえてしまったとしても仕方がない。

 まぁ、一応確認してみるか。


「い、今なんて言いました? 」

「はぁ!? にわとりでも三歩歩かなかったら忘れないのよ。何も動いてないのになんて言われたか忘れるなんて鶏以下じゃない」


 りえがうるさいがここは完全に無視する。

 それにしても、りえは全く動揺していない様子なので、やはり勇者がどうたらの話は幻聴だったのだろう。


「はぁはぁ……。アオイ殿とリエ殿に勇者になっていただきたいと言ったのじゃよ」


 ……幻聴ではなかったようだ。

 幻聴ではないと言うことは本当に僕も勇者になれると言うことだろうか。

 子供頃からの夢が思わぬところでかなったな。

 いや、まだ気が早いか。

 もしかしたら勇者の素質を試す試練みたいなものがあるかもしれないしな。

 真の勇者しか抜けないと言われる伝説の剣を抜けられれば勇者になれるみたいなよくある展開になれば、勇者になれるかは正直分からない。

 とはいっても、完璧な最強主人公である僕なら問題ないだろうが……たぶん。


「勇者になるってどうやったらなれるんですか? 」


 どうやってなれるかなんていくら考えても答えは出てこないだろうので、聞いてみた。

 分からないときは遠慮なく聞くのが僕のスタイルだ。


「はぁはぁ……二人が望めばワシが勇者になるために必要な作業はすべてするからな、二人がしなければならないということはないと思うぞ」


 へぇ。特に試練はないんだな。

 何も努力せずに勇者になれるとは、逆に怪しく感じてきた。


「勇者って……」

「うむ。それもそうじゃな。簡単に決められることでもないじゃろうし、ランチでもしながら詳しく、この件について話すとしないか? はぁはぁ……」


 国王が僕の質問を遮るようにそう言ってきた。

 確かにいろいろ聞きたいし、ランチでもしながらゆっくり話すのも一つだな。


「賛成ぃ!」

「僕も賛成です」

「よし、決定じゃな。そこの机で食べるとするか。では、三人分の食事を頼む」

「ハッ! 」

「「うわぁっ! 」」


 びっくりした。

 さっきまで何もなかった空間から人が出てきて、国王の注文を聞くとまたどこかへすっと消えてしまった。

 いつも護衛が少ないなと思っていたが、実は見えないだけで何人か護衛が付き添っているのだろうか。

 それにしても、心臓が飛び出るかと思ったぞ!

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