第35話 勇者になったからって惚れちゃうなよ!
――その後、僕たちは中庭の隅にあったおしゃれなアウトドア用のテーブルセットに座り、運ばれてきた豪華なランチを食べながら先ほどの話の続きを始めた。
「さっきの話の続きなんですけど、勇者になったら何をすれば良いんですか? 」
一番、気になっていた話を聞いてみた。
勇者とか適当におだてて、戦争とかにかり出される可能性だってあるのだ。
しっかりとこういうところを確認しておかねばならないだろう。
「ワシから
「なにそれ、メッチャ良いじゃない!
確かに、逆に不安になるぐらい良いな。
さすがは勇者と言ったところだろうか。
とてもじゃないが、国王の言葉からは、嘘をついているようには感じられない。
これは、勇者になるのもアリだな。
しかし、一つだけ知っておきたいことがある。
それは国王の目的だ。
これまでの話を聞くに、国王は手続きに、僕たちの支援と損することばかりで得することなどないように感じる。
国王も目的がないのに、勇者になるように勧めることはしないだろう。
ここは正しい判断をするためにも目的を聞いておくべきだろう。
「最後に一つ良いですか? 国王陛下様の僕とりえを勇者にしたい理由を教えてください」
「理由か……。簡単な話じゃ」
国王はそう話を切り出した。
「ワシはワシの一人娘であるエマが心配で心配で仕方がないのじゃ。ワシがいる間はワシが守ってやれるのじゃが、ワシも永遠に生きられるわけではない。人間など明日死んだとしてもおかしくない貧弱な体なのだから、明日死んだとしても大丈夫なように生きるのが大切じゃ。そうとは思わぬかね」
それは確かに正論だ。
僕は首を大きく縦に振り、国王の問いに答える。
それはともかく、それと僕たちを勇者にすることは関係のないような気もするのだが……。
「しまった、話が少しそれてしまったな……。ワシな、一刻も早くエマが頼れる人を増やしてやりたいのだよ。歳も近く、頼るに値する力を持つ二人はエマにとって頼れる人となるであろう。ただし、二人がただの客人では頼れる人と離れぬ。その点、勇者なら、世界で一番と言っても過言ではないほど頼りになるであろう」
そういうことだったのか。
この理由ならば、僕たちを勇者にしようとしていることに納得がいく。
エマ大好きな国王だからこそ、説得力が
本当にエマを思ってのことなのだと一瞬で分かる。
それに、あの目は嘘や騙そうとしている目ではない。
どこか悲しそうで、どこかうれしそうで、どこかほっとしたような、きれいなあの瞳は信じても大丈夫だろう。
「ワシはな、二人にエマの頼れる相手になってほしいそれだけじゃ。どうだ? 勇者になってくれるか? 」
国王は僕にそう尋ねた。
僕の中では、もうすでに答えは決めた。
もちろん、答えはYESだ。
「そうですね。僕は勇者になりたいと思います」
「葵がそう言うなら、私もなるわ」
「そうか。それはよかった。ただし、一つだけ約束してくれ。先ほど
勇者の僕たちには求めないが、ただの僕たちに求めることがあるとは、もしやだまされたのだろうか!?
「――エマを守ってやってくれ。
なんだそんなことか。ほっとした。
ひょっとしたら凄いことを押しつけられるのではないかとビクッとしたぞ。
その時というのが気にはなるが、頼まれなくてももはや友達であるエマが困るようなことがあれば助けるのは当たり前である。
「もちろん! エマちゃんことは私たちに任せて! 」
「エマのことは僕たちに任せてください! 」
「ありがとう。これで一安心じゃな……。それでは、アオイ殿とリエ殿。二人を四百九十五代目ベルサイユ王国、国王ジュピター・ベルサイユの名において二人を勇者に認定する」
――こうして僕、立花葵と
「失礼します。リエ殿、アオイ殿。稽古けいこの時間ですぞ。時間は有限ですので、中庭に早く移動くだされ」
「やっと稽古の時間になった! アオイ! 先に行ってるわね」
「時間は有限だと言っているではないですか!? 早く行きますぞ。アオイ殿! 」
「は、はい! 」
――勇者になった数日後、僕は勇者になったことを少し後悔することになるのでした。
「――クソぉぉぉぉぉ!!! 」
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