第36話 ”勇者”立花葵の英雄伝 ~ごくごく普通の日常編~


 僕の名前は立花あおい。つい数日前まではただの中学生だった。

 しかし、今はなんやかんやで異世界召喚され、膝枕事件や模擬戦での大切なところ攻撃されるという忌々いまいましい事件を経て、勇者になった。

 ……我ながら、今までの冒険の軌跡が、勇者の冒険の軌跡とは、とてもじゃないが思えないな。

 まぁ、そんなことはおいておくとして、僕は今何をしているでしょうか? 答えは……。


「さぁさぁ、どこからでもかかってきてください。かかってこないのなら、こちらから行きますぞ」


 いじめられています。誰か助けて! ヘルプミー!

 イジメカッコワルイって、小学校で習わなかったのだろうか。これだから異世界は!


「うっわ! ……あっぶな! 」


 いきなり襲いかかられたのでガチで心臓が飛び出るかと思った。

 僕はなんとか反応し、木刀で攻撃を受け止めた。

 そろそろ分かったかもしれないが、イジメとは稽古けいこのことである。

 今、この国の剣術指南けんじゅつしなんで僕たちの指南役であるハンネスさんに稽古という名のイジメを受けているのだ。


「ほう、今のを受け止めるとは……。アオイ殿もリエ殿ほどではないにしても成長なされているのですな」


 一言余計だ。確かに、りえの成長速度はヤバい。

 今もエマと異次元の戦いをしている。

 ……のだと思われる。というのも二人とも速度が速すぎて全く見えないのだ。

 でも、ときどき衝撃波のようなものとともに、ここから少し遠くの地形がものすごい轟音ごうおんとともにどんどんボコボコになっているので異次元の戦いをしているのだろうと簡単に予測がつく。

 ちなみに、今この場所は異世界召喚され、ゾンビの群れに襲われ、エマに救われた最初の平原である。

 というのもエマが王城から抜け出す用にこの場所を瞬間移動の魔法である刹那の帰還イピストゥロフィーに登録しているらしいのだ。

 なのでエマとりえが本気で戦えるようにと、稽古の時は毎日ここに来ているのだ。


 おっと話が脱線してしまったのだが、とにかくりえの成長速度がハンパないのだ。

 つい数日前まではただの女子中学生だったとは思えないほどである。

 まさに典型的な異世界ファンタジーに出てくる勇者といった感じだ。


「さすがリエ、また昨日よりも強くなっていますね」


 エマとりえは稽古を一旦やめ、雑談を始めた。

 ここ数日の間エマとりえは今日のように稽古という名の模擬戦を毎日しており、二人の距離は急激に縮まってきている。

 出会った時は「リエちゃん」呼びだったのも、今では「リエ」と呼び捨てになっている。

 僕への呼び方は依然として「アオイ君」呼びなのだが……。まぁ、それは気にしてはいけないだろう。


「ありがとうね、エマ。私もかなり強くなってるとは、思うんだけどエマにはまだまだ届かないのよねぇ……。やっぱりエマはすごいわね」


 エマとりえを見ていると異世界ファンタジーのアニメを見ているような気持ちになる。

 『異世界から召喚された急激な成長を続ける勇者と最強の力を持つ王女の友情物語』……みたいな感じでどうだろうか。

 ……うん。ベストセラー間違いなしの作品になりそうだ。


「稽古中によそ見とは悠長ですな」


 ハンネスさんの攻撃を受け止めたことで、しばらくの間つばぜり合いのようになっている。

 なので僕はエマとりえを見ながらベストセラー間違いなしの作品を考えているわけだ。

 しかし、突如としてこう言い放つとハンネスさんが後方に大きく飛翔ひしょうし、僕との間合いをとったのだ。


 ……嫌な予感がする。

 僕は意識を研ぎ澄まして次の攻撃に備えた。

 すると、案の定というかものすごいスピードで『突き』を放ってきた。


「あっぶな! ……」


――コツッ


 僕は意識を研ぎ澄ましていたこともあり、なんとか体を大きくねじることで『突き』をよけることができた。

 

 ……僕は思うのだ。

 よけれたから良かったものの、つい数日前まではただの男子中学生だった人に対する仕打ちではないと思うのだ。

 『突き』だぞ『突き』。

 普通に考えて危ないだろう。

 もし当たって大けがでもしたらどうしてくれるのだろうか!

 イジメだ。イジメ!

 まぁ、ハンネスさんの使っている剣はただの木の棒なのだが……。

 そんなことはおいておくとして、やっと今日は一本いただいたぜぇぇぇ!


「――ふふっ。今日は僕の勝利ですね、師匠!」

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