第37話 僕って服のセンスないの!?

「――ふふっ。今日は僕の勝利ですね、師匠!」


 僕は満面の笑みを浮かべながら『ハンネスさん』改め『師匠』にそう告げた。

 ちなみに、僕もエマがりえの呼び方を変えたようにハンネスさんの呼び方を『師匠』にこの数日の間に変えたのだ。

 ちなみにその理由は実に単純だ。

 『師匠』と呼ぶ方が異世界で稽古をつけてもらっている感が増すからである。


「ふむ。やはり腕を伸ばしておりますな。指南役としてうれしいですな。まさか私に卑怯な手を使わずなくとも攻撃を当てられるようになるとは……」


 そう。さっきの『突き』を放たれたとき、体を大きくねじってよけるついでに木刀をハンネスさんに当てたのだ。

 

 ……我ながら凄いな。

 さすがは勇者といったところだろう。

 僕もりえと全く同じように異世界転移を果たし、現在ではりえと同じく勇者なのだ。

 なので今はまだだけど、僕もそのうち、完璧な最強主人公として力を解放するに違いない。

 それがいつ、どのようなきっかけで解放されるかは分からないがいずれエマとりえのような、下手をすればそれ以上の力を手にするに決まっている。

 なのでまだ解放する前とは言え、これくらいの才能の片鱗へんりんをみせたとしてもなんら不思議ではないのだ。

 

 ……け、決して『突き』をよけようと体を大きくねじったら、たまたま師匠に当たったので、さも自分がやったかのように振る舞っているわけではない。

 ま、まぁ。……も、もしそうだったとしても、運も実力のうちと言うし問題はない……はずなのだが。……たぶん。


「アオイ君も急速に成長しているのですね。この国の剣術指南である爺やに攻撃を当てられる者など、この国でも数人しかいません。このたった数日でその域に達しただけでとてもすさまじい成長といえるですね。ま、まぁ。リエは一瞬で爺やを超してしまったので、実感はわかないでしょうが……」

「確かにさんは強いし、攻撃を当てられるようになったなら凄い成長なんでしょうけど……。アレって、……たまたまよけるときに当たっちゃっただけじゃないの? 私にはそうにしか見えないだけど」


 少し離れたところから二人の会話が聞こえた。

 クッソ。りえにはバレてしまったようだ。

 ずっと一緒にいることで僕の心理が簡単に読み取られてしまっているのだろうか。

 とは言っても、『バ、バレちまったらしょうがない。本当のことを正直に言ってやろう』なんて言うわけないに決まっている。

 隠し通してみせる。

 幸いにもリエは気づいたようだが、師匠やエマにはバレてないみたいだし、問題はないだろう。


「ふふっ。やっと気づいてくれましたか。そう、僕もどんどん成長しているのですよ。初めての模擬戦の時は確かにちょっとだけ卑怯な手を使いましたけど、今では卑怯な手など一切使わずに正々堂々、師匠ともとも戦えるようになっているのですよ」


 まさかまぐれだったとは思われないように、自分の実力であったと言うことを強調して話した。

 我ながら完璧はないだろうか。

 これで、たまたま当たっただけだという疑いも晴れるだろう。


「怪しいわね」

「確かに今の言い方は怪しいですね」


 外野がうるさいな。一体どこがダメだったというのだろうか。完璧だっただろうに!


「うっわ! いきなりどうしたのよ、葵! け、決して葵の悪口なんて言ってなかったからね」


 僕は、なにやらいちゃもんをつけている、りえとエマのいるところまでダッシュで行った。


「そ、そうですよ。アオイ君の服のセンスが微妙だなんてまったく言ってないですからね」

「――ねぇ、二人とも陰口たたくなら「、もっと上手くやりなよ。二人の会話は丸聞こえだったから。ずいぶんと僕の成長の結果を『たまたま当たっただけ』とか『怪しい』とか自由に言ってくれてたよね。……ん? ……え? ちょ、ちょっと待って! エ、エマ、今なんて言った? 聞き捨てられないことが聞こえたような気がするんだけど! 」


 僕の言いたかったのは、僕の成長の結果に対するいちゃもんである。

 ……なのだが、なんか聞き捨てのならないことをエマが言ったな。

 ついさっきまでは頭の中のすべてがそれで埋まっていたというのに、現在はどうでもそんなことはどうでもよくなってしまった。

 まさかとは思うが、服のセンスが微妙だなんて言われてないよな。

 僕は服のセンスには自信があるので、そんなことはないと思うが……。

 大丈夫だよな……。

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