第22話 ささやかな朝のひととき
「失礼します。りえちゃんとアオイくんは起きていらっしゃいますか? 」
てっきり朝食だと思っていたが、エマだったようだ。一体、何の用だろうか。
「起きてるわよ」
「僕も起きてるよ」
僕とりえはそう言いながら、この客室の入り口のドアの前に歩いて行った。
「エマちゃん、おはよう」
「おはよう、エマ。わざわざ王女様がここに来るってことは何かあったの? 」
「おはようございます。特に何かあったわけではないのですが、もし二人が良ければでいいのですが、一緒に朝食を食べながらお話をしたいなと思いまして。ぜひ、これまでの二人の冒険話をお聞きしたいです」
そういえば、これまでことを話す約束をしたような気もする。
エマにもいろいろと聞いてみたかったこともたくさんあるし、この世界の人間の中に僕たちの状況を知ってくれている仲間を作るのもいいだろう。
もしかしたら何かがあったときに協力してくれるかもしれないし。
しかも唯一、僕たちの状況を知ってくれている仲間が王女様というのはとても心強い物がある。
この提案はまさに素晴らしい案だと言えるだろう。
「いいよ。これまでの冒険話を満足いくまで話してあげるよ」
僕が快くエマの提案を受け入れると、りえが僕の肩をぽんぽんと軽く叩いてきた。
僕がそれに反応して、後ろを振り向くとりえがひそひそと耳打ちしてきた。
「これまでの冒険話って、何の話をするつもりなのよ。まさか、異世界から来たことを言うつもりなんじゃないでしょうね? 」
「そのつもりだけど、なんかだめだった? 」
「いや、別にだめじゃないだけど……そんな話したら、葵みたいに私まで頭がおかしくなったんじゃないかと疑われそうじゃない? 」
こいつ。また僕を頭がおかしい呼ばわりしたな。
りえの言うことは、もっともなことなのだがむかついたので、勝手に話を進めてしまおう。
「ん? どうかしましたか? 」
「いや、なんでもない。遠慮なく入ってくれ」
「ありがとうございます」
僕たちはリビングルームにあった四人用の机を囲んで座った。僕の隣がりえで、僕たちの正面にエマが座っている。
とても豪華な朝食も届いたので、早速これまでの冒険話をエマに話し始めた。
「――っていうことがあってこの世界に召喚された僕とりえはなんやかんやでゾンビの群れに襲われ、エマに助けてもらったってわけ」
「ねぇねぇ。あの膝枕事件のこと話してもいい? 」
「絶対ダメ! 」
「――ヒザマクラ事件? 」
冒険話をすることに反対していたりえを無視して勝手に話を始めてしまったというのに、そんなことはもう忘れたのだろうか。
不機嫌どころかむしろ上機嫌にからかうようかのごとく、あえてエマにも聞こえる音量で、そう聞いてきた。無論ダメに決まっている。
そんなことはおいておくとして、今までのことを本当に簡単にだが、エマに話した。
さぁ、エマはどんな反応をするのだろうか。普通に考えるならば、あり得ない馬鹿げた話と思ってりえの危惧していたとおりに頭がおかしくなってしまったのだと思うだろう。
しかし、ここは異世界ファンタジーの世界だ。僕たちよりも前にこの世界に異世界召喚された人々がチート能力なんかでこの世界を無双していて、異世界人という存在を知っていたって不思議ではない。
「へぇ~。二人はこの世界とは別の世界から来たのですね」
お! この反応はやっぱり僕たちよりも前にも異世界召喚された人がいたのだろうか。
「世界はやはり不思議なことがたくさんあるのですね。この世界とは別の世界があるなんて、今まで知りませんでした」
まさかの凄く純粋なだけであった。いや、別の世界から来たと言われあっさりと受け入れるとは、どれだけ純粋なのだろうか。さすが王女様である。
まぁ、ゾンビの群れを一瞬で消し炭にしたり、父親を殴ったりと、少しおてんばではあるが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます