第21話 幸せな目覚め


――時はりえと葵が客人になった翌日である、異世界生活2日目の朝にさかのぼる。


(――なんだ? もう朝か。まだ眠い。あともうちょっと寝たって問題ないだろう)


 そう思って二度寝を始めた。すると、なぜか突然デジャブを感じた。似たようなことを昨日の朝もしたような……。

 って、あ! 膝枕事件だ!

 今日はさすがに大丈夫だろうなと思いつつもいつもと違う違和感がないかを探した。

 

 ……違和感しかない。

 

 なんだろう、この寝心地の良さは。

 昨日はなにもない草原のど真ん中で膝枕してもらいながら寝るのと比べると、まさに天と地の差だ。

 ……まぁ、どっちが天で、どっちを地と感じるかは人それぞれかもしれないけど。

 そんなことはおいておくとして、問題の枕も膝枕ではないと一瞬で分かるほど寝心地が良い。

 目が覚めてから、少し時間がたち意識もはっきりしてきたので、昨日のことをほとんど思い出した。


 確か、なんやかんやあって王女様の客人となり、国王の言っていた『最高級のおもてなし』というものを受けている最中だった。そんな気がする。

 そういえば、昨日の昼食と夕食、とてつもなくおいしかったな。あの味を思い出すだけでよだれが出てしまいそうだ。

 

 ――ん?今はもう朝である。

 ということはあとちょっとしたら朝食の時間になるのではないだろうか。

 昨日、客人として迎え入れてもらった後に昼食と夕食はすでに食べさせていただいている。

 しかし、朝食はまだ食べたことがないのでどんなものが出てくるのかが気になって仕方がない。

 二度寝したいという気持ちを抑えて、目を開けるとするか。


 ……僕が目を開けた先には、とても上機嫌そうなりえがいた。


「おはよう、葵。ねぇねぇ、凄くいい寝心地じゃなかった? 私、こんなにいいベッドで寝るなんて始めてだったんだけど。王女様の客人っていうのは素晴らしいわね! 」


 満面の笑みを浮かべながら、りえがそう話しかけてきた。何で同じ部屋にりえがいるかって?

 案内をしてくれたハンネスに聞いたところによると、今は一つしか客室があいていないそうだ。

 本当は別々の部屋が理想だったのがわがままは言ってられない。

 

 まぁ、もちろん僕は大歓迎だけど!


 しかも僕たちの部屋はかなり広いので特に文句はない。この部屋には、リビングルームとは別に二つ寝室がある。

 それぞれの寝室にベッドが二つずつあるのでおそらくこの部屋は四人用なのだろう。

 二つ寝室があるのでもちろん、それぞれの部屋ということにはなってしまった、じゃなくてなったのだ。


 ――あーあ。なんという期待外れだろうか。こんなものただのシェアハウスのようなものじゃないか……。


 そう思い落胆していた僕に対して、りえはとんでもないことを言い出した。


『修学旅行の夜みたいでなんだかわくわくしない? せっかくなら今日くらい一緒の部屋で寝ない? 』


 ――と。

 あ、ありがとうございます! そう言われたらしょうがない。しょうがないのだ。これはあくまでりえのわがままに付き合っているだけなのだ。

 ということで、今僕の目の前にはりえがいるのだ。


「ふわぁぁぁ……。おはよう、りえ。マジそれな。……ってかさ、マジでどうでもいい話なんだけど。……りえっていつも何時に起きてんの? 昨日も僕が起きた時には、すでに起きてたし、今もまだ薄暗いし、まだ6時とかでしょ。僕も別に寝坊してるわけじゃないと思うんだけど」


 僕はベッドから立ち上がり、スリッパを履き、あくびをしながら寝室についていたカーテンを開けて、りえにそう尋ねた。

 朝食の時間まで時間が少しあるので、どうでもいいことだけど、少し気になったのでとりあえず聞いてみた。


「ううん? ……四時くらい? 」

「早! 」


 四時に起きて一体何をしているのだろうか? 学校が開くのは八時とかだぞ。

 りえの家の場所からして七時半くらいに家を出れば十分だろう。三時間半も何をして過ごしているのだろうか?

 暇なので、りえに続けて聞こうと思ったのだが。


コン、コン、コン


 おっと、誰かがドアをノックしたようだ。

 おそらく、朝食を運んできてくれたのだろう。一体どのような料理が出てくるのだろうか。非常に楽しみである。


「失礼します。りえちゃんとアオイくんは起きていらっしゃいますか? 」


 てっきり朝食だと思っていたが、エマだったようだ。一体、何の用だろうか。

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