第84話 今から僕……完璧な最強主人公になるわ

「それって……」

『えぇ、その通りですよ。葵さん。”無秩序の冥護”それはあなたの生まれ持った力であり、私が封印をされ失った力の一部です。約一万年の時を超え、適正者であるあなたのもとで宿ったのでしょう』

「え? 葵ってそんなに凄かったの!? どうして力を隠してたのよ」

「いや。えっ? 女神様の力の一部……!? ってか、隠してたとか損なんじゃほんとになくてガチな方で戦闘能力、マジ皆無なんだけど……」


 ――女神様の失った力の一部?

 こんなに弱々な僕に本当にそんな力があるのだろうか。

 そんなことより、適正者って何?

 この世界に来たから手に入ったみたいな異世界ファンタジーの王道の展開ではなく、生まれながらで、もとの世界から実は隠し持って的な方の展開だということなのだろうか。


『うーん。今回も半分正解で半分不正解といったところでしょうか。確かに生まれながら持っていた力ではありますが、何もしらない能力を使うなど不可能で、自身の力を自覚するなどできるはずもないですから隠し持つという表現は少々語弊がありますね』

「わざわざ心の中での問いまで答えてくださってありがとうございます……」


 ――思考を読み取られていると今からしようと思った質問も先に答えられてしまうので、なんか微妙な気持ちになる。

 そりゃ、効率は最強だし、何をイメージしてそうやって聞こうとしているのかまで分かるのだから、誤解をすることもないし、誤解を招かないような言葉選びもしなくて済む。

 それは、良いことなのだけど……。

 常に集中しなくてはならないし、疲れるんだよな……ってこれも聞かれているんだよね……。


『――そ、そうですね。思春期ですし、そういう配慮も必要ですものね。一旦思考を読むのはやめますね。すみませんでした』

「あっ、いや、思春期とか関係なくてだけどね……ってりえ、なんでそんな冷めた目で見るの? 別に何もやましいことなんて……」

「いや、何でもないわよ。それで、カオス。葵は具体的にどんな力を持ってるの?」


 ――なぜかりえに凄い冷めた目で見られてしまった。理不尽だ。

 僕は何も悪いことなどしていないと言うのに。

 まぁ、そんなことはおいといて、一番気になっていた僕の力を聞いてくれた。

 一体僕にはどんなチート能力があるのだろうか。

 スマホゲームで頑張って手にした超激レア確定ガチャを引くときと似た感覚だ。

 勝利を確信した上で、どんなチートがもらえるのかを楽しみに待つ……なんて素晴らしい気持ちなんだろうか。


『葵さんの持つ”無秩序の冥護”は、先にも行ったとおり私の失った力の一部です。ですが、具体的な能力は、正直私にも分かりません。葵さんのような存在が現れるだろうとは予想できていたのですが、私以外がその力を持っている存在が現れたのは初めてなので、正直どれほどの力を持っているのかは分からないのです』


 ――うーん。なるほど。

 レア度はマックスではあるが、能力は使ってみてのお楽しみというわけだ。

 いかにもシークレットの激レア能力みたいで良いな。


『ですが、一つだけ分かることもあります。それは私の力の完全再現をすることも可能であるということです。今の能力は全く分かりません。今までの葵さんの武勇伝からして、失った力の一パーセントも引き出せていないように感じます』


 ――ギ、ギクッ!

 話を聞きながらうすうすは感じていた。

 僕がその最強の力を全然引き出せていないのではないだろうかと……。

 よっし! 決めた。

 というか、原点に戻ってきたというか、忘れかけていた目標に戻るというか何というかだけど……。


「――りえ。女神様。今から僕……完璧な最強主人公になるわ」

「あ、葵。急にどうしたの!?」

『そうですよ。急にどうしたのですか? 』


 そうだ。

 コツとかさえつかめば、最強の能力を使えこなせるようになるかもだし……今、力の一パーセントも引き出せていないとか関係ないのだ。

 というより、その分伸びしろが凄いのだ。

 そうやって考えよう。

 ってかそう考えたら、力を完全に引き出せるようになれば本当に完璧な最強主人公に慣れるのではないだろうか。

 そうと決まれば……。

 

「だからさ……コツを教えてください」

「うっわ。かっこつけてからこれ? ダッサ」


 ――外野が非常にうるさい。


『えっ? あっ。も、もちろん良いですよ』


 ――なんか、女神様にも惹かれてしまった気がする。

 この世界、世知辛い。


『えーと。先ほどった力の一パーセントも引き出せていないように感じるといいましたが、葵さんは、先ほど私の無秩序の治癒カオス・アナスタシーを無意識に使用していましたよね。なら、どのような力を使える可能性があるのかと、どのようなことを意識すれば良いかさえ分かれば、だいぶ使いこなせるようになるかもしれませんね」

「確かにそうね。葵は私を助けてくれたもんね」


 ――あ!

 そういえば、そうだった。

 ガイアにやられて、だいぶまずい状態になっていたりえを救おうと女神様があの時に使ってくださった魔法を口ずさんでみたら、なんか使えたのだ。

 てっきり、女神様が助けてくれたのだと思い込んでいたが、あれは僕の力だとガイアにおしえてもらったのだった。

 ちょっといろいろありすぎて、忘れてしまいそうになっていた。

 ちょっと待てよ。

 ということは僕は結構才能があるのではないだろうか!?

 ……って、ビビッたぁ―。

 女神様が指をパチンと鳴らすと、急に太い辞書のような本がどこからともなく現れた。


『――葵さん。これをどうぞ。これは使える可能性のある能力……。いや、魔法でしょうか。まぁ、とにかく使えそうな能力や魔法をコツというか、イメージすると良いこととともに載せておきました。いわゆる魔法の書というやつです』

「えっ!? すっご! ありがとうございます」


 ――キタァァァ。

 魔法の書。

 これぞ異世界ファンタジーの世界である。

 早く使ってみたい。

 これで僕も完璧な最強主人公に大きく近づいたというものだ。


『ただ、それを渡す代わりに、私を殺すことを約束してください』


 ――ただより高い物はない。 

 そのことわざを思い出させられた。

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