第85話 打開策?

『ただ、それを渡す代わりに、私を殺すことを約束してください』


 ——背中のあたりがぞわっとなった。

 うっわ。このパターンか……。

 ただより高いものはないとは、まさにこのことだろう。

 正直、この魔法の所は欲しい。

 夢だ。憧れだ。

 これさえあれば完璧な最強主人公になれるかもしれない。

 欲しい。なんとしても欲しい。

 

「うっわ。やっぱ性格悪いわね、あなた……」


 ……だけど、今回は忘れよう。

 こんな本などなかったのだ。

 そうやって思うとしよう。

 この本は欲しい。

 だけど、本欲しさに女神様を殺す約束などできるはずがない。


『お褒めいただきありがとうございます』

 

 ——そりゃ、今だけ適当に約束するとでも言って、本をもらって、その後はチート能力を満喫しつつ、女神さまを殺すのはのらりくらりとやり過ごし、女神さまが諦めるのを待ちつつ人生を謳歌するなんていう、したたかな作戦だってしようと思えばできる。

 ぶっちゃけ、はたから見れば、それが最善なのかもしれない。

 ゲスイ作戦とはいえ、本をもらえ、女神さまを殺さずにも済み、一石二鳥な作戦がこれなのだ。

 他人の目を気にしているわけではない。

 僕は他人の目など、時には気にせず自分勝手に行動する勇気も大事だと思っている人間だ。

 だけど、今回ばかりはダメなのだ。

 だって、隣にりえがいる。

 たった一瞬でさえ、どんな些細なことでさえ、りえを裏切るような真似は絶対にしたくない。

 だからこそ、僕の答えは一つしかない。


「はぁ……そんな感じならいら……」

『まぁ。……と言うのは少々意地悪ですよね。本音で言えば、そう迫りたいところですが、今無理やりそういわせたところで仕方がないですものね。それでは、無料でそれを差し上げます。ただ、判断をするときに多少はこの恩を加味してくれると嬉しいですけどね』


 女神さまは、そう言ってはにかんだ。

 一瞬僕の思考を読み、方針を転換したのではと疑ってしまったが、この純粋な笑顔を見てなお疑うような真似は僕にはできない。

 

 ——ふむ。

 この本は賄賂というわけか。

 まぁ、悪くはないな。

 今まではそんなの無理に決まっていると突っぱねてしまおうと思っていたが、ほかの打開策でも考えるとしよう。

 

「それじゃあ。賄賂ってことで受け取らせてもらおうかな。その代わり、いい打開策を考えるよ」

「『打開策? 』」

「そう、打開策。女神様は死にたいんですよね。だけど僕たちは命を投げ出すような行動はしてほしくない。ならさ、女神様が死にたいと思わなくても済むようにすればいいんじゃないかって」

「具体的には? 」

「女神様の死にたい理由は、五大神の暴走と孤独なんでしょ? なら、五大神の暴走の静止と孤独をなんとかできれば、命を絶つ必要もなくなるんじゃないかってね。孤独は僕たちがちょくちょくここに遊びに来れば解消されると思うし」

『――。確かに、その提案はうれしいですが、それはおそらく無理でしょう。ガイア以外の五大神は、正気を失っています。話し合いなどでは絶対に不可能ですし、暴走を制止するのは殺すしかありません。ガイアと戦った二人なら分かるとは思いますが、五大神は強いですよ』


 ——そんなこと知っているに決まっている。

 今の自分が勝てるなど思っていないし、どれだけ強くなったとしても勝てる気はしない。

 あのレベルに達せれるとは思えない。

 同じ土俵にすら立てないような気がする。

 でも……

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