第86話 もとの世界に帰りたいの?

「でもさ、それって女神様を殺すのだって同じことが言えるでしょ。女神様はさっき、りえと僕の力が合わさらなければ、殺すことはできないと言った。つまりりえも僕も一人では不可能ってことなんじゃないの? てことはそれなりの理由があるんじゃないの? 」


 ――そう。

 女神さまを殺すのを用意と思っては大間違いなのだ。

 史上最悪の悪神だとしたら間違いなくラスボスだ。

 そんな存在を殺すのが容易なはずがない。


『はぁ……。確かにその通りです。私を殺すには、完全に私の力を操れるようになった葵さんと、りえさんの見た能力を一瞬にして自分の力にできる”冥護”で葵さんが再現した私の力をさらに再現し、二人がかりで”無秩序の冥護”を使用しなければならないでしょうし、それなら五大神の方が、まだ倒しやすいかもしれません』


 ——はぁ……やっぱそうだったか。

 それにしてもりえの力は半端ないな。

 何? 僕が完璧な最強主人公の力を手にしてもそれを簡単に再現できちゃうの?

 チート過ぎてやばいな。


「ねぇ、それと思ったんだけど。大前提として、あなたが死ねば五大神は正気に戻るみたいになってるけど、そんなうまくいくの? 」


 ——た、確かに……。

 言われてみるとそうだな。

 女神さまが死んだところで暴走状態にある五大神はそのまま暴走を続けるような気もする。


『確かに、それも希望でしかありません。五大神は暴走をそのまま続けるかもしれません』

「なら、やっぱ目の先の目標は五大神の暴走を直接なんとかする方がいいでしょ。すぐには無理かもしれないけど、絶対に何とかして見せるからさ」

「そうね。あなたの自殺に付き合うのは絶対にごめんだけど、暴走した五大神をなんとかするのならいいわよ」


 ——勝てるか勝てないかではない。

 やらずに後悔するより、挑戦してみる方がいいに決まっている。

 情報収集をして、作戦会議をしても死ぬわけではない。

 どうしても無理ならほかの作戦を考えるしかないかもだけど、今はこれの目標に向けて挑戦してみるのがいいだろう。


『——。————。——————はぁ……。お二人の熱意に負けました。命を絶とうとするのはやめるとしましょう。確かに、それが最善ですものね』

「そういうこと! 」

「うんうん。そうこなくっちゃね!」


 ——よかったぁ!

 女神様も納得してくれたようだ。

 これで女神様を殺すという地獄は訪れずに済みそうである。

 はて、さて。

 次はどうやって五大神に勝つかだな。


『そうだ! 考えを改めさせてくれたお礼と言っては何ですが、葵さんにいい魔法を教えましょう』


  ——いい魔法?

 どんな魔法だろうか。

 チート魔法かな?

 ワクワクが止まらない!


『魔法の名前は無秩序の世界カオス・イフィリオス。いうなれば刹那の帰還イピストゥロフィーの上位互換の魔法で、空間だけでなく世界をも移動できる最強の魔法です』


 ——チート能力、キタァァァ!

 空間を一瞬で移動できる能力でさえ、もとの世界の常識で言えばチートだというのに、世界までも移動できるとはヤバすぎる。

 ……ん? ちょっと待てよ。

 世界を移動できると言うことは、もとの世界に戻ることも可能だと言うことだろうか。

 

「――それって、世界を移動できるって、もとの世界にも戻れるってことだったりしますか? 」

『えぇ。もちろんお二人のもとの世界にも戻れますし、そのほかにもこの世界を含めた六つの世界を行き来することができます』

「よっし! これで元の世界に帰れる! 」


 ――これでもとの世界に帰ることができる。

 この世界が嫌いなわけではないのだが、戻れるのだとしたら戻りたい。

 自由に行き来できるのなら、あっちの世界で主に生活しつつ、たまにこっちに来て冒険するなんて方法だってアリだろう。


「――葵……。葵はもとの世界に帰るの? 」

「いや、そういうつもりじゃ……」


 ――あっ……。

 そっか。そういうことか。

 その魔法を使えば二人とも帰れると思い込んでいたが、そうとも限らないのか……。

 はぁ……。

 そんな欠陥がある魔法なのだとしたら、使うことはないだろうな。

 りえをおいて自分だけ帰るなどという選択肢は僕にはないのだ。

 

『安心してください。無秩序の世界カオス・イフィリオスは複数人で同時に移動することも可能です。葵さんだけではなく、お二人で帰ることだってできるのですよ』


 ――お!よっし!

 これで二人で一緒に帰れる。

 さすがはチート能力だ。


「そういう話じゃなくて……。葵はもとの世界に帰りたいの? 」


 ――あぁ……そういうことだったか。

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