第87話 自由自在に異世界へ!
「そういう話じゃなくて……。葵はもとの世界に帰りたいの? 」
――あぁ……そういうことだったか。
完全に思い込んでいた。
みんながみんなもとの世界に帰りたい物だと完全に自己中心的に考えてしまった。
完全にやらかしだ。
よくよく考えればそりゃそうだ。
エマのおかげで衣食住は最高品質だし、娯楽だってりえからすれば、稽古などで体を動かせれば十分すぎるのだろう。
そりゃ、もとの世界に帰りたいとは思わないわな。
「いや、僕は結構この世界のこと気に入ってるし、別に帰りたいとは思わない。さっきのことは忘れてくれ」
「そうなの? 本当にそれでいいの? 」
「あぁ、もちろんだ。りえだってそうだろ? 」
「そうね……」
――これでいいのだ。
もとの世界に戻ったところで、何があるというのか。
そんなまだ見ぬ何かより、目の前のりえを優先させるべきに決まっている。
『帰りたいかはともかく、五大神をどうにかするならお二人の世界にはいずれ戻ることになると思います。というのも、お二人のもとの世界は五大神の一柱である夜のニュクスの管轄する世界です。ガイアは特殊な例ですが、五大神に会うにはそれそれの管轄する世界に乗り込む必要があります』
――五大神をなんとかすると宣言した以上、もとの世界に戻るのは避けては通れないだろう。
りえのことが心配だし、あまり気が乗らない。
『あくまで私の意見ですが、お二人は一度もとの世界に戻り、この世界ともとの世界を行き来しながら、学校生活を送りつつ、ニュクス戦に備え、力を付けていくというのが良いと思います』
「しっかりと力をつけてから、一瞬だけもとの世界に戻ってニュクスって奴をなんとかするのじゃダメなの? 」
――確かにりえの意見はもっともだ。
別にわざわざ戻って学校生活との両立をする必要もない気がする。
『りえさんはともかく葵さんは、家族をどうするのですか? 今はともかく、ずっと放置しておくのですか? 幸いにもお二人は春休みの最中であり、行方不明者届などもまだ出ていません。戻るなら今しかないですよ』
――間違いなくその通りだ。
戻るなら今しかないだろう。
ただりえに僕のせいで辛い思いはさせたくはない。
『りえさん。余計なお世話かもしれませんがアドバイスをしましょう。何も家に帰る必要はないのですよ。葵さんの家に居候させてもらったっていいんですよ』
――確かにそれは良い案かも知れない。
りえはあの家に帰りたくないようだし、無理に帰る必要もない。
内に居候するのは名案かもしれない。
「え……でも、流石に迷惑になるんじゃ……」
「いや、別に大丈夫だろ。うち母親と二人暮らしなんだけど、今、母親入院中でほとんど一人暮らしみたいなもんだし、来たいなら全然歓迎するけど」
――そう。
それが僕が帰らなくてはならない要因なのだ。
異世界に来た時点で、僕は一回死んだと思っている。
だからこそ、母親のことが心配ではあるものの今の自分を優先させようと思っていた。
あのお母さんはいつも、私のことより自分のことを優先させなさいと言っていた。
だからこそ、表向きにはその気持ちを出さないように心がけていたが、本当に心配だった。
僕がこっちにいる間、病院に顔を出せなかったし、同化したのではないかと心配をかけているかも知れない。
早く顔を見せてやるとしよう。
「え? 葵ってそんな感じだったの? ……まぁ、そう言ってくれるとうれしいけど……。でも兄妹でもないのに一緒に暮らすとか普通に考えてダメじゃない? 」
「いや、今とそう変わらなくね? 」
「え? 」
「だって今だって同じ部屋で生活してるし、あんま変わらなくない? 」
「た、確かにそうだけど……」
――どうやらりえは悩んでいるようだ。
僕としてはりえと一緒にもとの世界に一度戻りたい。
戻るのならば、僕の家で一緒に過ごすのが一番だろう。
うーん。あとなにかきっかけさえあれば、落とせるような気がするのだが……。
よし! この作戦でいこう!
「迷ってるようだし、僕から頼む。一緒に住もうよ。一人じゃ、さみしいわ」
「――ふふっ。そう? そういうことなら、居候。させてもらおうかな。それじゃあ、葵。さっさと例の魔法を使えるようになっちゃって」
――は!
完全に忘れていた。
もう使えるような気がしてしまっていたが、そういえば使えるようになるために今から練習を始めるのだった。
やっとゴールしたと思ったのに、まだスタート地点に立っただけか……。
いや、スタート地点に立てたのだ。
それを喜ばしく思おう。
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