第105話 二万はまだリーズナブルだろ!
「――ふー。たっだいまぁ! 今帰ったよ」
「おかえりなさい、アオイ君」
「おかえり。……ねぇ、葵。ちょっと良い? 」
一体どうしたのだろうか。
二人の機嫌が悪いような気がする。
なんかまずいことをしてしまっただろうか?
もしかして、起こられる流れなのだろうか……。
「え、えーっと……。どうした? 」
「葵、これは何? 」
「――そ、それは! 」
りえが僕に見せてきた物。
それは僕のとっておきのフィギュアだった。
ちょっとエッチな……。
「アオイ君……。こういう趣味をお持ちだったのですね」
「ひくわぁ……。さすがにひくわぁ……」
ひどい言われようだ。
まぁ、しょうがない部分もあるのだが。
というか、テンションがかなりガチっぽい。
なんで、こうなったのだろうか……。
「いや、これには訳が……って、それどこで見つけたの? 」
「葵の部屋」
「入るなっていったよね」
「入るなは入れって意味でしょ」
「それどこの日本語だよ」
「あ、話をそらそうとしていますね。アオイ君! 」
「ギ、ギクッ! 」
バレてしまった。
またしても必殺の話題そらしが通用しなかった。
というか、この技はいつになったら成功するのだろうか。
「アオイ君、この人形は一体何なのでしょうか。かなり大切そうに飾られていましたが……」
「葵。フィギュアを飾るのは良いと思うわ。でも、こういうのはどうかと思うの」
こういうのとはつまり、下着姿のフィギュアである。
確かに、これはあまり良くないかも知れない。
ただ、これには理由があるのだ。
「そうだけどさ。これには理由があって。……ちょっと待って」
僕はそう言うと自分の部屋から、フィギュアのパーツを持ってきた。
「ちょっと貸して」
「良いけど……」
「これを、こうして、こうやってっと。よし、完成! 」
「おーぉ。人形が服を着ましたね」
――そう。
これはただの下着姿のフィギュアではないのだ。
これは服の着脱が可能な珍しいタイプのフィギュアで、通常はごくごく普通のかわいらしい健全なフィギュアなのだ。
「そう、このフィギュアの本来の姿はこれなの。だからさ……」
「つ、ま、り、洋服が着脱可能なフィギュアってことね。私、ただの下着姿のフィギュアよりこっちの方がいやらしい気がするんだけど」
「え? 」
「確かに……。なんかいやですね」
「うぇ?」
「それにさ。わざわざフィギュアの服を脱がせて、その状態で飾るって言うのもまた……」
「うわぁ……。いやですね……」
「ふぇ? 」
――ひどい。
でもその通りな気がする。
確かに捉え方によってはかなり変態な行為な気がする。
引かれてしまうのも、無理もないのかもしれない気もしてきた。
「ちなみにこれって何円くらいで買ったの? 」
「二万円くらい……」
「たっか! 」
――そう。
このフィギュアは完全受注生産のかなりお高い物である。
とはいっても、まだ中学生の僕のお小遣いでもギリ払えるくらいのそれなりの値段ではあるが……。
「フィギュアに二万って……。まぁ、人それぞれ価値観は違うし、別にダメって訳じゃないけどさ。中学生の限られたお小遣いを頑張ってためて、買うのがこれなの? 」
「別にダメじゃないでしょ」
「ダメじゃないけど、わざわざお金を貯めてまで、これを買う葵の思考にちょっと引いてるだけ」
――なかなかに辛辣なご意見である。
とは言っても、確かに一理ある。
「ねぇ、エマはどう思う? 」
「すみません。二万円ってどのくらいのお金なのですか? 」
「え?」
「あ! そっか!」
どうやらりえはまだ理解できていないようだけど、僕は理解した。
そういえば、エマはこっちの世界のことを何も知らないのだ。
普通に会話できるので、忘れてしまいがちだが、英語に翻訳するときにそのままローマ字で表すような日本特有の言葉はエマたちには通じないのだ。
もちろん、円という単位が通じなくても当たり前だ。
「円って単位がどのくらいか分からないってことだよね」
「そうです」
「そっかぁ、円が通じないだ」
ようやくりえは状況を理解したらしい。
りえが遅いと言うよりは僕が早すぎたのだろう。きっと。
やっぱ、僕は完璧な最強主人公にふさわしいのかもしれない。
「えぇーっと。円っていうのはお金の単位で、一円がそっちの……ん? あ! 」
「どうかした? 」
ヤバいことに気づいてしまった。
まぁ、別にヤバいわけじゃないんだけど。
「うちらって向こうの世界で一切お金、使ってなくない? 」
「そういえば、そうだったわね。……で? 」
「向こうのお金がどんな感じか分からないから円の説明がむずかしいだよ。ってか、お金ってそっちの世界にもあるよね? 」
そもそもの話だ。
お金という概念がなければ、説明がかなり難しくなる。
「お金はありますよ。我がベルサイユ王国ではベルサイユ通貨という物が使われています。そういえば見せたことがありませんでしたね」
よかったぁ。
お金という概念はあるようだ。
あとは、こっちのお金の価値を説明できればオッケーだ。
「そっちにもお金があるなら、あとはお金の価値だな。まぁ、これに関しては実際に買い物をするのが手っ取り早いか。せっかくだし、買い物にでも行く? 」
「良いわね。賛成よ」
「そうですね。買い物をして、こちらの世界のお金の価値を知る……。それが一番良さそうですね」
「それじゃあ、それで決定ってことで! 少ししたら、買い物に行くか」
こうして、お金の価値を教えるというかなり不思議な理由の買い物に行くことになった。
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