第100話 ただいま我が家!

「ねぇ、葵。国王に話を通したし、エマも一緒に行けることになったし、早くもとの世界に戻っちゃいましょうよ」

「いいけど……だいぶノリノリだな」

「だって、葵の家に居候させてもらえるんでしょ。ならもちろんもとの世界に帰りたいって思うわよ」

「実は私もりえと同様、非常にわくわくしています。アオイ君、早く行きましょう」


 確かに、僕も早くもとの世界に戻るというのには賛成だった。というか今ももちろん賛成だ。

 母親のことも気がかりだし、できるだけ早く戻ってやりたかった。

 だからこそ僕も焦ってしまったのだろう。

 

「早く行くのは僕も賛成なんだけど、準備とか大丈夫なの? 着替えとか持ってかなくても大丈夫なの? 」

「あっ、そうね。ねぇ、エマ。この城のあの服たちって以て茶っても大丈夫? 」

「もちろん大丈夫ですよ。なにせお二人用に準備したのですから好きなだけ持って行ってください。ですが、その前に。まず、アオイ君は完璧に魔法を使いこなせるようになっているのですか? 空間移動はできるようになったようですが、世界間移動までもできるようになっているのですか? 」


 ――そう。

 世界間移動はまだできるとは決まっていないのだ。

 もう無秩序の世界カオス・イフィリオスを完璧に使いこなせるようになった気でいたが、まだまだ習得の途中だったのだ。

 まぁ、でも。


「――そっか。そういえばそうだったな。まぁ、でも空間移動だって意外と簡単にできたし、やってみたら意外と簡単にできそうじゃない? とりま、やってみるわ」

「そうね。とりあえずやってみましょう」

「そうですね。では、荷物を持った状態では難しくなるかも知れませんし、とりあえず、このままやってみましょう。それで成功したのなら、一度戻ってきて再度魔法で向こうの世界に向かいましょう」

「ナイスアイデアだ! 」

「えぇ。それで行きましょう。それじゃあ、葵! 」

「あぁ、任された」


 ――世界間移動。

 おそらく空間移動とそう大差はないだろう。そう思っていた。

 集中して、集中して……もとの世界のイメージをして……。

 僕は二人の手首をしっかりと握った後、詠唱をした。


無秩序の世界カオス・イフィリオス! 」

「ん? 転移しないわね。葵、もう一回やってみて」

「――無秩序の世界カオス・イフィリオス!」

「できませんね。アオイ君、もう一度! 」

「……無秩序の世界カオス・イフィリオス

「もう一回! 」

無秩序の世界カオス・イフィリオス!」

「もう一度やってみてください」

無秩序の世界カオス・イフィリオス

「数多くやれば、いつかはきっと成功するわ。もう一回! 」

無秩序の世界カオス・イフィリオス

「より集中力を高めて! 」

「ふぅ……。無秩序の世界カオス・イフィリオス! 」

「もっと気持ちを込めて!」

無秩序の世界カオス・イフィリオス!!! 」

「一文字一文字を大切にして! 」

無秩序の世カオス・イフィリ……うっわ、なんだこれ……」


 急に気持ち悪くなったのだ。今のように頭痛もした。本当にまるで風邪を引いた時のようだった。

 なんで……? どうして……? 急にこうなったんだ?

 そんなことの自問自答をひたすらに繰り返していた。


「葵! どうしたの!? 大丈夫!? 」

「アオイ君! もしや、これは魔力切れを起こしたのかも知れません。魔力が切れるとこのような状態になると聞いた覚えがあります」

「魔力切れ? どうしたら治るの? 」

「魔力を補給できれば治るとは思います」

「魔力の補給……なら、カオスのとこにまた戻れば! エマ、早く馬車の準備を! 」

「そうですね。カオスさんのとこに向かうことにしましょう。ですが、刹那の帰還イピストゥロフィーの転移先に登録しておきましたので馬車の必要はありませんよ」

「流石ね! それじゃあ! 」

「えぇ。行きますよ。刹那の帰還イピストゥロフィー! 」



 そして、女神様のもとに僕を連れまた戻った二人のおかげで、僕は女神様から魔力を分け与えてもらい、完全復活を果たした。

 完全復活の後、調子に乗って練習をまた山ほどやったのが冒頭の惨状だ。

 そして今に至るというわけだ。

 本当に今日だけで何発の無秩序の世界カオス・イフィリオスを放っているのだろうか……。


「はぁ……。だいぶ休憩できたし、もう一回やってみるか」

「良いの? 」

「あぁ、大丈夫だ」


 はぁ……。正直もっと休みたい。

 だが、母親のことが気がかりだし、二人も早く連れて行ってやりたい。

 もうちょっと頑張ってみるのもアリだろう。


『――やる気にまたなったようですね。では、私から葵さんにアドバイスを授けます。葵さんのイメージしているものをなんとなく読み取ったのですかもとの世界のあらゆることをイメージしているように感じます。一度、転移先を一点、葵さんの家に絞ってイメージしてみてください』


 一点か……。

 確かに今までは世界全体というかいろんな者をイメージしてやっていた。

 自分の家に絞ってやれば確かに成功しそうな気がしてきた。


「なるほど。そうやってやってみるよ。ありがとうございます」


 僕は、二人の手首をもう一度しっかりと握った。

 そして、集中して自分の家を思い浮かべる。

 一番いた時間の長い場所だ。

 イメージは自ずと具体的になってくる。

 そして、心を一つして、詠唱をする!


「――無秩序の世界カオス・イフィリオス! 」


「うわぁぁぁ! え!?……もしかしてここって!? 」

「見たことがない景色です……」

「よっし! できた! やっと、やっと。ただいま! 我が家! 」


 ――僕たちはついにもとの世界に戻ることができたのであった。

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