第78話 どうして? と聞きたくて……
『私を……殺してください』
「――。――――。――――――ぇ……? 」
――は?
――私を……殺す……?
意味が分からない。いや、そのままの意味なのだろうが、まったく頭が追いつかない。何を求め、何に追いつこうとしてるかさえ分からない。
ただ一つ分かるのは、その言葉が冗談などではないと言うことだけである。
あの目を見れば分かる。冗談をかましているような目ではない。
あの儚げな目を、表情を見れば関わりの薄い僕でさえ分かる。
――冗談ではないならば、なぜ殺してほしいのだろうか。
ただ殺してほしいのならば、自分たちなんかより強い冒険者や本物の勇者なんかに頼めば良い。
わざわざ僕たちに頼もうとする意味が分からない。そこにどうにも女神様が殺してほしいと願う理由のヒントが隠されているように感じる。
――あぁ……。まったく分からない。
意味が分からない。理解できない。頭が追いついてこない。
――どうして?
と聞きいてしまいたい。
分からないときは相手に聞くのが一番なことくらい分かっている。理解している。誤解かもしれない。ただの聞き間違いだったのかもしれない。
聞かなくては分からないことがいっぱいある。
でも、聞くことは僕にはできない。
理由はきっと怖いからなのだろう。
この話題に深入りしたくない。するべきではない。そう頭は理解しているのだろう。
でも、女神様を裏切るような真似をしたくない。
――頭の整理が追いつかない。
僕は何をするべきなのだろうか。
どうすれば良いのだろうか。
「――あなた……死にたいの? 」
りえが短く長い沈黙の中、声を上げた。
それはひどく静かで、冷酷で、それでいてなぜか思いやりも感じる不思議な声だった。
『えぇ。死にたいです』
「なんでか教えてくれる?」
――女神様が答えると、一間とおかずに次の質問を投げかけた。
僕が参加するいとまをつくらないようにするためかのように。
これも僕を思いやってのことなのかも知れない。
――あぁ……。りえは強いな……。
りえの投げかけた質問は実に直球的なものだった。
一見冷酷無慈悲な冷たい印象も受け取れてしまうこの質問だが、りえの中で考え抜いたであろう、長すぎず、聞きたいことがはっきりとしているベストな言葉だ。
それに加え、愛のこもったあの言い方。
りえだからできるものであり、りえでしかできない神の御業のようなものだ。
――あぁ。これで本当によかったのだろうか。
りえをこの場に立たせてしまって本当に良かったのだろうか。
いや、良くなかったに決まっている。それは、紛れもなく僕の問題で、今になってはどうしようもない問題だ。
『簡単な話です。私がいると不幸になってしまう人が山ほどいるからです』
「それは事実なの? その信憑性は? 命を捨てるほど重大なものなの? あなたの勘違いではないの? 」
――不幸になる人が山ほどいる?
一体どういうことなのだろうか。
理解できない。
りえはたたみかけるように、質問を続けた。
一瞬、表情が変わった。
質問に乗せられた温かみが半減した。
この話題、りえにとって思うところが山ほどあるだろう。
だからこそ、僕の介入を許さない。
いや、何人として介入できないような重々しい雰囲気を作り出している。
『分かるものは、分かるのですよ』
女神様は冷静だ。
何を聞かれても、淡々と答える。
ただ答える。
これは、人間ではできるはずのない神の御業である。
「――なにも……わかって……ないじゃない……」
『確かに、りえさんの今までの経験からすれば、私の考えはとうてい理解することのできないことなのかも知れません。ですが――』
「あなたは何一つとして分かってない! 」
――りえが声を荒げた。
今起きたことはただそれだけのことだ。
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