第77話 女神様の望み

「――え? 何ここ?」

「神秘的って言葉以外に表現できないわね。」


 正直、きれいな夜景というのを侮っていた。

 屋敷に来る前までいたような草原で、夜空でも見ながらおしゃべりくらいだと思い込んでいた。

 ここは断崖絶壁の崖の上であった。

 それも超幻想的な。

 この場所は、ドラマのワンシーン。

 いや、ドラマを制作するプロの演出家たちですらこの景色を再現するのは至難の業だろう。

 それほどまでに美しいのだ。


『どうですか。この夜景は? 私のお気に入りなんです』 


 本当に凄いと思う。

 足下に僕たちを囲むように咲き誇る光輝くコスモスのような花々。

 崖の下に見える美しい風景。

 とても近くに見える大きな満月。

 花々と対抗するように輝く星々

 こんな幻想的な夜景見たことがない。

 

 それにしてもこの花々。

 なぜ光り輝いているのだろうか。

 一瞬イルミネーションと疑ったが、それは間違いであると直感で分かった。

 この花々には、なぜかいつも感じている雰囲気を感じる。

 それをどこで感じているかは分からないが、とにかくよく知っている感覚がするのだ。


「本当に凄いわ。こんな幻想的なところ、紹介してくれてありがとう」

「これは、本当に凄いですね。感動しちゃいました」

『それはよかったです。それで、本題なのですが……』


 あ!

 感動のあまり、また本題を忘れてしまうところだった。

 ようやくだ。ようやく聞ける。

 

『――葵さん。りえさん。……私はあなた方に頼みたいことがあります。ただ……。これを聞けば、背負う必要のないことまで背負うことになってしまうかも知れません……。それでも。それでも良ければ……。私の独り言を聞いていただけませんか?』

 

 独り言か。

 頼み事を頼むのではなく、独り言とあえて言うことで、それをやるかどうかの選択肢を僕たちにくれるということだろう。

 それだけ重たい頼み事と言うことなのだろう。

 

 ――怖い。正直怖い。

 だけど、僕は心に誓ったのだ。


 ――あなたの力となり、恩を必ず返してみせる……と。


 だからこそ、僕は後ろを向かない。逃げるなどしない。

 どんなことだろうと受け止め、今はまだ無理でもいつかあの恩を返してみせるだ。


「もちろん聞きますよ 」

「そうね。私にも聞かせて」

『――ありがとうございます。……さて、今から僕の言うことはただの独り言です。聞きたくなければ耳の穴に指を入れ、無視をしてください』 


 一体どうしたというのだろうか。

 まぁ、そんなことは今はどうでも良い。

 やっと女神様から、頼みたいことという者が聞けるのだ。

 やっとだ。本当にやっとである。

 今の女神様は、満月をバックに僕たちの前に立っており、その美しさでさらに僕を魅了していく。


 ――女神様。僕は、たとえどんな手段を使ったとしても。どんなに時間をかけたとしても。必ずその願いを叶えてみせる。

 僕は、頼まれたことは絶対にしてあげたいのだ。

 任せてください女神様!


『――葵さん。りえさん。頼みます』


 僕は、どんな頼み事だろうときっと叶えてみせる自信がある。

 女神様に恩を返してみせる!

 

――だから!


『私を……殺してください』

「――。――――。――――――ぇ……? 」

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