第70話 間違いで正しい話

『――お久しぶりです、葵さんにりえさん。それにガイア。そして、初めましてですね、エマさん 』


 感動の再会だ。

 まぁ、さっきからさも大冒険のうえでの感動の再会のように言っているが、ぶっちゃけ精神だけの状態とはいえつい昨日の夜から今日の朝にかけて会っていたばかりなのだが……。


『――すみませんでした。ガイアがお三方に迷惑をかけてしまったようですね。私の監督不行き届きです』


 急にどうしたとも思ったが、そういえば、女神様は人の思考を読み取れるのだ。

 それにしてもまるで母親のような言い方だな。

 『うちの子供がご迷惑をかけてしまったようですみませんね……』と謝っている愛情に満ちあふれた優しい母親にしか見えない。

 確か勇者になったときに国王から六柱の最上位の神々の一柱だと聞いていた。

 僕の推察だが、少女改めガイアと女神様は六柱の最上位の神々という同じ身分なのだと思う。たぶん。

 しかし、これは一体どういうことなのだろうか?


「カオスちゃま! あたちはなにも悪いことをちてません! 全部こいつらが悪いんでちゅ! 信じてくだちゃい!!! 」

『ガイア、あなたはりえさんやエマさんを唐突に襲いかかり、もし葵さんがいなければということを想像するとゾッとするような状況を作り出しました。それは許されないことですよ』

「それは……」


 そうだ! そうだ! もっと言ってやれ!

 こっちは大事な人を失いかけたんだぞ! もっと反省してほしいものだ。


 ……うんうん。こっちは何一つ悪いことなんてしていないのだというのに!


『――うーん、葵さん。何一つしていないというのは、少し違うのではありませんか? もちろん一番悪いのはガイアで違いありませんが、今回はみんな被害者で加害者な部分もあるように思いますし』


 えっ? 僕も加害者? 一体どうして?

 僕が一体何をしたというのだろうか。

 僕はこの世界に来てから誰かに恨まれるような行動をした覚えはない。

 それにこのつい先ほどまでは全く知らなかった、このガイアという少女のことなど一ミリも知らないのだ。

 そんな存在になにかしらの害を加えた記憶はない。一体なぜ?


「えっ? い、いや……。こ、今回は僕たち何も悪くなくないですか? 」

「はぁ? あたちの可愛い子供達にアンタひどいことちて、よくそんなこと言えたわね」

「可愛い子供達……ってあいつらのこと!? いやいや、でもあいつらも襲いかかってくる気満々だったし、しょうがないだろ」

「殺したことをしょうがないとか言うノただのヤバい人でしかないのよ」

「ヤバい人って……。確かにそれだけ聞いたら、ただのヤバい人だけどさ…… 」


 確かに、殺害という行為を正当化するようなことはヤバい行為以外の何事でもない。

 でも、相手は魔物だ。こっちも自分を守らなくてはいけないのだから、ある程度はしょうがないと思うのだが……。


『――二人の意見はどちらも間違っていますが、厄介なことに正しくもあります。おそらくこのままでは埒があかなそうですね……』


 どうやら、女神様を困らしてしまったようだ。。


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