第69話 この反応、もしかして……!


「んじゃ、大地の世界エザフォス・イフィリオス〜っと」

「いや、ちょっと待……て……って、え? 」


 ――少女は急に魔法を放った。

 すると、周囲は一瞬暗転し、気がつくと僕は全く知らぬ地を踏んでいた。


「ここは、封印の森。あんたがいきたがってた場所ってわけ。感謝ちなさい」


 ここが封印の森なのか……。

 封印の森というのだから迷いの森みたいな感じに薄暗く、鬱蒼うっそうとしているのを想像していたがその予想は的を外していたようだ。

 この場所は思ったよりも明るい。

 というのも樹木はほとんど生えておらず、森というよりも、ここはだだっ広い草原である。

 さっきまでいたところの方がここよりよっぽど封印の森という感じがする。


「――ここが封印の森なんだな。思ってたより明るいし、なんというか神聖な感じのする場所なんだな」


 僕は忘れたりなどしない。

 今のヤバい状況を……。

 今この状況は、いつ本性をあらわにしてもおかしくない殺人鬼と二人っきりでいるのと同じなのだ。

 この場所に転移した瞬間は、二人と僕を離す作戦だとも思ったが、二人は今僕の後ろで柔らかい草むらをベッドにして寝ているのでそれはなさそうだ。

 しかし、いつ本性がちらっと出てしまうかもわからないので言葉一つ一つを大切にしながら接している。


「――ここは創造神、原初たる神カオスちゃまの住まう、神聖な場所なんだからこのくらい神聖でそれでいて明るいのも当たり前よ」


 『創造神にして原初の神、カオス様』とは、女神様のことだろうか。


 ……くっそ!

 せっかく夢の中で会えたのだから名前くらい聞いておけば良かった。

 まぁ、どうせいまから会えるのだから今から聞けば結果オーライだな。

 

 よし! このままの調子でこの少女との会話を伸ばして時間を稼いで、二人が目覚めるのを待つとしよう。


「――。――――。――――――。」


 うっわ。ヤッベ。

 何も話す話題が思いつかない。

 どうしよう。

 全く何も思いつかないわけではないのだが、地雷を踏みかねない話題はアウトなので話す話題が思いつかないのだ。


 ……き、気まずい。

 少女は目をつむりながら静かにその場にたたずんでいる。

 ……まずいな。

 話して話題を逸らしている間はいいかもだが、この無の時間は、少女に今が戦闘中であることを思い出しかねない。非常にまずい。


「――、あの。えーっと。その。あの……」


 マズい。非常にマズい。

 どうしよう。

 頭が混乱していて何も思いつかない。

 いわゆるパニック状態に陥ってしまったようだ。 どうしよう。どうしよう。誰か!Help me!


「――うるちゃい! 今集中ちてるからだまって! 」

「え? あ、すみません……でした……」


 一体何に集中しているのだろうか。

 確かに目をつむりながら静かにたたずんでいたその姿は集中している人のそれだろう。


 しかし、一体何を?

  まだ、この少女のことなどほとんど知らないが、今のところは自由奔放な印象を受けることが多い。

 そんな人がそんなに集中することなど一体どんなことなのだろうか。


 ……嫌な予感しかしない。

 この少女でも予想外な問題でも発生したのだろうか。


「――ッ! やっぱりこの気配って! あんた、くれぐれもぶれいな言動だけは慎んでね! 」


 それはあなたにだけは言われたくないのだが……。

 まぁ、いっか。

 この反応、もしかして……!

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