第67話 秘めし禁断の力
[立花葵 視点]
「——ねぇ? なんであんたはそんな表情、ちてんのよ? 」
少女が話しかけてきた。
てっきり『何てことすんのよ! 』みたいな子供のわがままみたいなことを言い出すのだと思っていたのだが、一体どうしたのだろうか。
いや、そんなことよりも、この言葉の意味はどういうものなのだろうか。
表情? 表情のどこが悪かったというのだろうか?
というかはじめましてのこいつに僕の表情の何がわかるというのだろうか?
「——なんていうか、自分を嘆いてるみたいなその表情……一体どうしてなのよ」
ああ、そういうことことか。
そんなことは簡単だ。
僕自身は何もできない、ただ邪魔にしかなれないお荷物なのだ。
女神さまが助けてくださっただけで、僕自身は何一つとしてできない。
そんな自分が嫌なのだ。
そりゃ、それが多少に顔に出てしまうかもしれない。
それでも……。
「だって、僕は……。僕自身は何一つとしてできない、邪魔にしかなれないお荷物だし……」
「——え? だってさっきあんたの”無秩序の力”でリエとかいうそのこをたちゅけられたじゃない?」
え? え? え? いや、えぇぇぇ!?
僕の"無秩序の力”?
いや、あれは女神様が助けてくれただけで、僕は何もしていない……。
そうだ。そのはずだ。
あぁ……もしかしたら僕も邪魔をするだけでなく、少しは役に立てていたのかも知れない……そう期待してしまった。
違う。違うのだ。
これはこの少女が無知なだけだ。
あれは確かに……
「――いや、あれは女神様が助けてくれただけで、僕は何も……」
「女神様? ……あーぁ、カオスちゃまのことね。……いや、あれは紛うことなきアンタの力によるものよ。少なくともカオスちゃまによるものじゃない。だれよりもあの方に詳しいあたちが断言してあげるわ」
僕の力……。
あれが僕の力……。
といことは、僕も……、邪魔にしかれない僕も……、少しは役に立てたと言うことだろうか。
あれが僕の力……。
回復魔法を自由自在に使いこなすことのできる力なのだろうか……。
それとも魔法を使いこなすことができる力なのだろうか……。
もしかしたらチート級の能力かも知れない。
剣の才能はあまりない気がするので剣以外の能力な気がする。
チート級の禁じられた古代の魔術なんかを使いこなしたり、無詠唱で最強魔法をポンポン連発したりなんてことができるかも知れない。
想像するだけであんなにも沈んでいた心が躍ってくる。
ふふ。なんだか、大切なことを思い出した気分だ。
楽しい。楽しい。
この時間が楽しい。
自分を忘れていた。
全然自分らしくできていなかった気がする。
僕はこうやって馬鹿みたく、プラスにプラスに考えていく方が似合っているのだ。
何事にも悲観的になりすぎていた。
いや、あれはしょうがなかった気もするが、過去は過去。
過去は変えられなくとも未来は変えられる。
今から変えれば良いのだ。
それで十分だ。
まったく同じ世界でも捉え方で見え方は変わってくる。
楽しんでいれば、プラスに物事を捉えていれば、世界は明るくなる。
そういうものなのだ。
「――そうだった……。そうだったよ……。忘れてたみたいだ。……ふぅ」
「ん? 急にどうしたのよ? 」
「これが僕の秘めし禁断の力ってわけ! 異世界ファンタジーのような完璧な最強主人公であるこの僕ならそういう力があったって何も不思議じゃないわけだしさ! ってまた中二病疑惑をかけられそうだから先に行っとくけど、別に中二病とかじゃないからね! くれぐれもそこは注意してよ、り……え……。って…… 」
少し、暗い雰囲気になっていたこの空間を盛り上げようと全力を尽くしつつ、最後にりえの表情を確認しようと膝の上のりえの顔を見ると……目を閉じていた。
「あーあ、消耗しょうもうが激しすぎたせいで眠っているだけ。ちゃんとあんたのおかげで傷も治ってルっぽいし、そのあとにあたちがなんかしたわけでもないし。きっとそのうち目覚めるわ。ちなみに、そっちの子も全く同じね」
そういいながら少女が目線を移した先にはエマの地面に横になっている姿があった。
……ふぅ。よかったぁ。それにしても消耗が激しすぎてそのまま眠ってしまうとはどれだけ無茶をしていたのだろう。
このまま少しここで二人を看護しながら目覚めるのを待つとしよう。
二人ともなんやかんやありつつも無事なようなので一安心だ。
……ん? なにか重要なことを忘れているような……。
「――。――――。――――――。……はっ! 」
「ん? どうちたん? 」
凄いことに気づいてしまった。
そういえば今は戦闘中だ。
そして、現状を達観してみるととても戦えるとは思えない眠り姫が二人とどんな魔法が使えるのかすら自分の力を理解できてない未熟……じゃなくて伸びしろの塊のような偉大なる英雄の卵しかいないのだ。
……うん。ヤバい。
少女が友好的に接してきたのが悪いのだ。
完全に敵同士であることを忘れていた。
――どうしよう。ヤバい。
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