第18話 国王陛下のおなーりー

「エマ、聞きたいことがあるんだけどさ。屋敷ってこの城のこと? 」

「そうそう。私も気になってたんだよね。この城がエマちゃんの屋敷なの? 」


 そう。この城がエマの言っていた屋敷なのかだ。まぁ、おそらくここまでのことからしてこの答えは……


「あれ? 言ってなかったでしたっけ? 屋敷はこの城のことです。私はこの城に住んでいるので城ですが、屋敷です」


 ですよねぇー。エマの言う屋敷がこの城であることは薄々分かってはいたものの、ここに住んでいるというのは驚きだな。


 ――うーん。

 嫌な予感しかしない。

 いや、別に悪いわけではないのだけど……。

 高貴こうきな身分で、国王にまでも捜索そうさくに出るほど心配されていて、城に住んでいる。

 そして、この国の名前『ベルサイユ王国』とラストネームが同じ……。

 これほど条件がそろうとアレしかないように感じるのだが、心配しすぎだろうか。

 よし、さっきはきけなかったけど、もう一度きいてみるか。


「エマ、さっきもきいたけど、ベルサイユって……って、うわ!」

「エマ!!! あぁぁぁ、見つかって良かった。もう会えないかと思ったんだぞ。いったいどこに行っていたんじゃ」


 ふさふさな白いひげを生やした小太りなおじさんが突如として現れて、エマに抱きついた。

 あの頭に付けている王冠からしておそらく国王だろう。

 なるほど。さっき、爺やが『刹那の帰還イピストゥロフィーで急に目の前に転移するのはおやめください』といっていた意味が分かった。寿命じゅみょうが縮まる。本当に心臓によくない。


「やめてくだい。お父様。リエちゃんとアオイくんが見てます。……セイ! 」


 エマが回し蹴りをして国王を蹴飛けとばした。

 ……ちょっと待てよ。エマが国王のこと『お父様』とよんでいたような……。国王をお父様と呼ぶと言うことは国王の娘と言うことだよな。

 ……ってことは……王女様ってこと!?


「姫様、国王陛下様に例の件を言わなくてもよろしいのですか? 」

「あ! 忘れてました。ってお父様、気絶しちゃってるじゃないですか! まぁ、叩けば起きますよね」


ビシ! バシ!


 エマが回し蹴りされて気絶していた国王の頬に往復ビンタした。荒治療あらちりょうにもほどがある。

 っていうか自分の主である国王が気絶しちゃってるのに爺やも守衛さん達も冷静だな。

 普通ならもっと慌てふためくような気もするのだが……。

 

 そして、今更なのだが国王は一人で来たようだ警備けいびは一体どうなっているのか。

 町の中とはいえ、普通は護衛ごえいに何人か連れ歩くものではないのだろうか。まぁ、魔法がある異世界では当たり前なのかもしれないが……。


 にしても、エマが王女様とは驚きだ。異世界の王女様と言ったら、もっとおとなしい姫様を想像していたのだが……。

 ゾンビの群れを一瞬で消し炭にしたり、親を回しりしたり、往復ビンタするようなおてんばな姫様が王女様だったとは予想外だ……。


「は! ここはどこ? ワシは誰? 」

「はいはい。記憶喪失きおくそうしつなんてあの程度じゃしないに決まってるじゃないですか。あと、そのネタ古いですよ」


 あー。そのネタこっちにもあるんだな。そして、古いんだ。

 ついでにりえとも目が合ったので、りえもおそらく同じようなことを感じたのだろう。


「あ、そうそう。お父様に相談しようと思っていたことがあったのですが……」

「また婚約こんやく相手のユピテル王子のことか? いくらかわいいエマの頼みとしてもこればかりはゆずれぬぞ」

「いえ。この二人についてです」


 エマはそう言いながら、振り返り僕とりえに指を指した。やっと本題に入るようだ。

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