第17話 ここが屋敷!?


刹那の帰還イピストゥロフィー!!! 」


 ――魔法が放たれた瞬間しゅんかん、周囲が一瞬暗転あんてんし、気がつくと立派な城門の前に立っていた。


 『刹那の帰還イピストゥロフィー』ってなんか攻撃魔法っぽいのに移動系の魔法なんだな……。

 ……ってそんなことはどうでもいい。

 僕の目の前に広がるのは、エマの立派な屋敷……屋敷……ではなかった。なんというか……とても立派な城門である。

 ……って、アレ? いまから連れて行ってもらうのってエマの屋敷ではなかっただろうか。

 しかし、目の前の光景は、立派な城門とその奥にある中世ヨーロッパ風の美しい城である。とてもじゃないが屋敷とは思えない。

 屋敷と言うよりも王城というほうがしっくりくるほどである。


 ――あ! 分かった! これはアレだ。本当にこの城は王城で、エマの屋敷はこの王城近くにあるのではないだろうか。

 おそらく、帰還先をこの城門の前に設定していたのでここに転移しただけで、エマの屋敷はまったく別の建物なのだろう。

 そうだ。そうに決まっている。エマの言う屋敷がこの城を指すなんてありえない。

 だが、一応エマにたずねておこうと思い、話しかけようとした。

 すると、城門の前に立っていた守衛しゅえいと思われる三人の中の一人が話しかけてきた。

 僕にではなくエマにだが……。


「ひ、姫様! 何度も申していますが、『刹那の帰還イピストゥロフィー』で急に目の前に転移するのはおやめください。心臓に悪いですぞ。そんなことよりも一体どこに行かれていたのですか? 国王陛下へいか様はさぞ心配なご様子で、国王陛下自ら姫様の捜索そうさくに乗り出したほどでしたぞ。いい加減、城を無断で抜け出すのはおやめください」


 三人の守衛さんのなかでおそらく一番ベテランだと思われる人がエマにそう話した。

 他の二人の守衛さんは『騎士きし』といった感じである。二人は中世ヨーロッパ風のよろいを装着しているが、この人は剣を腰にぶら下げてはいるものの、鎧は着ておらず顔がはっきりと分かる。

 この老熟ろうじゅくした顔や声からして、かなりの歳のようだ。

 

 それにしてもエマが姫様と呼ばれているのには驚きだ。

 とは言っても、屋敷を持っているというのだから貴族のお嬢様じょうさまであることは薄々うすうす分かっていた。

 しかし、国王まで捜索に乗り出すほどの高貴こうきな身分とは思わなかった。

 公爵家こうしゃくけの一人娘とかだろうか。にしても城から無断で抜け出していたんだな。しかもこのペテラン守衛さんの言い方だとかなりの常習犯じょうしゅうはんっぽいな。

 まぁ、そのおかげでゾンビの群れから救われたと言っても過言かごんではないのだけど……。


「ただいまです。じいや。今日はゾンビが異常発生したと聞いたので、ちょっと遠くまでゾンビ狩りに行っていたのです。この二人はリエちゃんとアオイくんです。ゾンビの群れにおそわれてたから、ちょちょっと助けたのです。二人から聞いてみたいこともありますし、何日かこの城で客人として迎えようかなって思っているのですが、爺やはどう思いますか? 」


 僕たちが客人としてこの城で迎えてくれるように頼んでくれているのだろうか。いや、これはどちらかというと相談に近いのかな。

 守衛さんでは、客人をどうこうするような権力などないだろうし、どうすればいいのか相談しただけだろう。

 そして、この爺やとやら、昔からの関係なのか、エマにかなり信頼されているようで、ただの主従ではないきずなのようなものが感じられる。

 祖父と孫のようで見ていて心がほっこりする。


「そうですな。客人として迎え入れることに問題はないでしょうが、一応、陛下にその旨を伝えておくべきでしょうな。今から姫様が見つかったことを捜索に出ている陛下にマジックアイテムで伝える予定ですので、陛下のことです。おそらく、すぐにここに来るでしょうから、そのときに姫様からお伝えください」


 ん? えっ?なんかあっさり決まったみたいだけど、ほんとにそれでいいのか?

 国王がここに来るということは、僕たちもお会いできると言うことだろう。自分で言うのも何だが、身元が不明な二人組である僕たちはかなり怪しいと思う。

 もっと僕たちについて調べるべきだろう。敵国のスパイとかだったらどうするのだろうか。

 まぁ、客人として迎えてもらえるのならば何の問題もない。

 

 しかし、この爺やとやら、王様に直接連絡できるとは、実はかなり権力のある人なのだろうか。

 改めてみると、かなりの歳であるのにもかかわらず背筋はピンと伸びていて、どことなく油断のできない雰囲気をかもし出ている。

 全盛期の頃は、腰にぶら下げているあの剣で、英雄とあがめられるような活躍をした冒険者だったのかもしれないな。

 そして、今はこの王国で剣術指南役けんじゅつしなんやくにでもなり、それなりの地位にいるのかもしれない。


「ありがとうございます、爺や。それでお願いします」

「承知しました。それでは、いったん失礼して……」


 爺やは僕たちからいったん離れて、トランシーバーのようなものに向かって話し始めた。

 トランシーバーもどきからは、小さい魔法陣のような物が出てきているので、さっき言っていたマジックアイテムなのだろう。

 そんなことより、守衛さんが二人いるものの、いないのとほとんど変わらないので、やっとエマに聞きたかったことが質問できる。

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