第98話 新しい家族?
「――うむ。聞かせてくれ」
「陛下様。僕とりえは一度もとの世界に帰ろうと思っております。先ほどの話の続きには鳴りますが、女神様に僕たちは五大悪神となった五大神の暴走を制止することを託されました。だからこそ、一度もとの世界に戻り、もとの生活を営みながら、五大神との戦いに備えたいと思っています」
「ふむ。つまりエマを置いていく形となるで、それに対してワシに謝りたかったと。そしてついでに、勇者にまでならさせてもらっておいてもとの世界に戻るのは申し訳なく思ったのじゃな」
「すべてお見通しなんですね……。流石というか何というかです……」
「このくらいなんてことはない。ここ最近、人の思考がまるで読めているかのように、人の思考を読み取るのが得意になったでな」
人の思考がまるで読めているかのように……か。
本当に女神様の人の心を読み取る力のようだ。
「――ふむ。アオイ殿よ。ちょっと揺さぶってみても良いか? 」
「というと、何でしょう? 」
「アオイ殿なら間違いなく覚えておるよな。そなたを勇者に任命したあの日交わした約を」
「えぇ。もちろんです。だからこそ、先ほど謝罪させていただいたのですが……」
「あの時、エマを守ってやってくれと頼んじゃはずじゃ」
「その通りです。ですから、僕も定期的にこっちに帰ってきて、エマを……」
「それでは、本当の緊急時は守ってやれぬじゃろうて」
「それは……」
確かにそれはそうなのだ。
それはそうなのだが、エマは僕たちなんかよりよっぽど強い。
そんなエマが負けるような相手なんて……はぁ。いたな、昨日。
確かにその通りだ。国王の言うとおりなのだ。
もとの世界に戻ることを禁じるとでもいってくるのだろうか。
だとしたら、説得するという課程も増えるのか……。
「お父様、私ならアオイ君やリエがいなくとも大丈夫です。これ以上二人を困らせないでください」
りえが耐えかねたようにそういった。
本当に優しい子だ。
「――エマよ。ワシは前々から、皇位継承者であるそなたとは別々に暮らすのが最適であると思っていたのじゃ」
「きゅ、急にどうしたのですか? 」
「五大悪神のような存在がもしここに攻めてきたら、ワシもエマも簡単に殺されてしまうかもしれん」
「もしかして、僕とりえがいたらそうはならないと言いたいのならばそれは僕たちへの過大評価という者ですよ」
「そうね。エマが簡単に殺されるような相手なら、私がいても焼け石に水ってところね」
「いや、そうではない。単刀直入に言う。アオイ殿、リエ殿。二人に今から提案をする。考えてみてほしい」
「提案? それは一体? 」
「二人の世界にエマも連れて行ってはくれぬか」
――は!
その手があったか……って、ダメじゃないのか。
いや、良いのだろうか。
ん? 案外悪くはないか。
常識的に考えて、無意識的に選択肢の中に入れてなかったが、案外悪くはないのかも知れない。
家は三人で暮らしても問題ない広さはあるし、ちょうど三つベッドもある。三人用に作られた家なのだ。
エマと一緒に暮らすとなっても問題はない。
戸籍上の問題があるし、学校とかには行けないかも知れないが、普通に暮らす分には問題ないと思う。
たぶん……。
ただ、エマはそれを望むのだろうか。
それに、国として王女が他の世界になんか行っていて良いのだろうか。
「何を言っているのですか、そんなの」
「葵、良いんじゃないの? 」
「僕からすれば大歓迎なんだけど、エマはそれでいいのか」
「確かにアオイ君とリエと一緒にこれからもいられればうれしいですが、王女がそんな勝手なことをしてしまっては」
エマはそれで良いのか。
でも、やっぱ問題はそこだよな。
「あんなに毎日のように城を抜け出しておったエマもそんなことを言うようになるとはな。なに、心配不要じゃ。むしろ、ワシは国王とそのたった唯一の皇位継承者が同時に亡くなるという最悪のパターンを恐れている。エマ、お主も一人の少女なのだ。わがままを言ったって良い。行きたいのじゃろう? 」
「お、お父様……。はい! 私はお二人について行きたいです」
国王の父親としての優しいその言葉を聞き、エマは涙をこぼしながらそう答えた。
本当にこの二人の親子関係は素晴らしい。
本当に美しい。憧れる。
「うむ。それで良い。……だそうだが、この提案を受け入れてはくれぬか」
「あぁ、もちろんだ」
「もちろんよ、これで私たちこれからは家族みたいなものよね」
「「家族? 」」
「えぇ。だって向こうに行ったら一緒に同じ屋根の下、寝食を共にして生活していくのよね。それってもう家族みたいなものじゃない」
「あぁ、確かにそうかもな」
「家族……。素晴らしいですね! 」
――こうして僕は、新しい家族となったりえとエマ。その三人で、もとの世界に帰ることを決めた。
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