第64話 邪魔にしかなれない自分

 ――窮地に陥っている。

 見てないので、なんとも言えないが、聞こえてくる音の情報から考えるにかなり押されているのだろう。

 異常な強さを誇る二人相手に善戦どころか押している敵は一体どんな化け物なんだろうか。


「ねぇ! いつになったら学習すんのよ! いいかげん、あたちを無視ちゅんのはやめろ! 」


 僕は重い足で一歩ずつ戦場に向かいながら考える。

 僕ができることとは何なのだろうか。

 女神様は教えてくれた。

 僕にも”無秩序の冥護”とかいう力があるのだと。

 しかし、どんな力なのかは分からない。

 もちろん使い方など分かるはずもない。


 今の僕は、鬼の死体の山を見ただけで、パニックを起こし、貧血を起こして倒れた、迷惑なだけの凄い二人のお荷物だ。

 邪魔でしかない。

 そんな僕が参戦したところで、また邪魔になるだろう。

 それならいっそのこと、と知らないふりをして、二度寝でもして、凄い二人が解決してくれるのを待とうと思った。

 だけど僕にはそんなことさえできなかった。

 二人が心配で、邪魔になりに体が動いてしまう。


「ねぇ。無視されたくないんだったらまず攻撃するのやめなさいよ。殺そうとしてくるような奴と話してあげる人なんて世界中探したっていないわよ」


 りえはきっと僕を守ろうと、戦場から少し離れたあの場所に僕を置いたのだろう。

 そうに違いない。

 なのに僕は、せっかくのりえの気遣いを台無しにするかのように自分から戦場に近づいていっている。

 なにかできるわけでもないのに。

 ――あぁ、最低だな。僕。

 ……はぁ。これが俗に言う偽善者というものなのか。


「うるさい。だまれ! 大地の粛正エザフォス・スコトノ~! 」


 そうこう考えている内に戦っている様子がしっかりと見れるほどの距離まで近づいてきてしまった。

 二人は、返り血なのか自分の者なのか分からない血を全身に付けながら地面から次々と、足下にはえてくる刃を避けている。

 さすがはりえとエマといった感じか。

 ものすごいスピードで地面の刃をよけながら謎の少女の攻撃も同事に避けている。

 ただ、あの少女の強さは異次元だ。


「ぜったい許さない! 大地の叫びエザフォス・フォナゾ~! 」


 りえとエマ、りえを左手から放っている魔法で、エマは右手を使って拳で、地面から生えてくる刃とともに戦っているようである。

 そして、それをすべて一人でこなしているのだ。

 驚き疲れてあきれてしまいそうになる。そしてもう一つ驚いたことがある。

 てっきり全く戦闘の様子など、いつもの模擬戦のように見えないだろうと思っていたのだが、意外と見える。

 ただ、これは僕が成長した訳ではなくりえとエマの動きがいつもに比べて遅いのだ。

 その証拠に少女の動きはほとんど見えない。

 まぁ、エネルギー弾的な魔法を先ほどから放っているので、どこにいるのかは大方予想がつくし、衝撃波が生じるので戦闘の様子はある程度は分かるのだが……。


 ――そんなことより、りえとエマはどうしたのだろうか。

 いや、これは押されている証拠なのだろう。

 まずい。非常にまずい。


 ――あぁ、僕にもなにか力があればよかったのに。

 二人に邪魔ではない何かをできればよかったのに……。


「このままっ、受け流してたって……状況は悪化してくだけよねっ。……はぁ。どうする? エマ」

「――その通りですね。ですが…… 」

「はぁ……。流石にしぶとすぎるのよ。もう、いいのよ。十分なのよ。……そろそろ、本気を出すとするかしら」

「典型的な本気出す宣言ありがとね。……ッ――! 」

「リエッ!!! 」

「――ッチ。このあたちをてこずらせやがって……。ちゅぎはあんたよ」


 ――は!?

 意味が分からない。分からない。分からなすぎる。

 少女が典型的な今から本気出す宣言をした次の瞬間には、りえは遠くに吹き飛ばされていた。


 音は後から聞こえた。

 確かに人が殴られたような、いや蹴られた? そんな強烈な音が……。

 こうしてはいられない。

 早く。早く。早くいってあげなければ。

 たとえ何もできなくとも、邪魔にしかなれなくとも。

 僕は僕のために、行かなくては。


「――リエ、リエ。大丈夫ですか……。返事を――」

「そんな悠長にしてて大丈夫? さっきまで一対二で押されてたのに、今は一対一。普通に考えてやばいんじゃないの? って……誰よ、アンタ? 急に、挨拶もなしに出てきて、こっちも向かずに――」

「うるさい、ダマれ! 」

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