第4話 心に誓って!
意識がはっきりとしてきた僕は目を開けようと試みた。
そうして振り向いた先には、僕の視界の先には大量の深紅の血を流したりえがいた。
――涙すら出ない。
これは夢なんかじゃない。そう理解した。いや、してしまった。こんな出来の悪い悪夢など存在するはずがない。
――これは現実なのだ……。
――あぁ……何も考えられない。
体が動かないから? 恐怖が頭を支配しているから? 悲しさが限界を超えたから?それとも、自分に嘘をついてるから? 自分のくだらないキャラをこんな時でも維持しようと馬鹿げたことをしているから?
――心配する言葉すら出ない。
口が動かないから? 外に流れる予定だった水色の玉で頭のなかがいっぱいだから? りえよりも自分のことの方が内心では心配だから?
――あぁ、どうして泣けないんだろう。
どうして心配する言葉すら言えないのだろう。今の僕にはそんなことさえ許されていないのだろうか。
『だから! あなたたちに二つの選択肢を渡します。このまま悪神と化したニュクスに殺されるか、私の世界に一緒に行くか、です。さあ、私に残された時間は、残りわずかです。急いで、どちらかお選びください 』
えっ?
なんだそれ。そんな都合のいいことあるわけない。そう頭の中では分かっている。
しかし、この声には不思議と説得力がある。
それもそうか。先程、謎の力でこの声の主たる女神様に助けられたばかりなのだ。
だとすれば、本当に……!?
ならば、答えは決まっている。
どうやらこの世界は出来の悪い悪夢ではなかったらしい。出来の良い悪夢でもない、いい夢でもない。これは、奇跡という言葉が存在する、この現実だ。
りえを救いたい。りえの笑顔をもう一度見たい。女神様が言っていることの意味は分からない。
でも一つ確かなのは、このままここにいれば死ぬ運命しかないことだけだ。
しかし、女神様の世界に行けば助かるという保証があるわけでもない。選択肢をくださったということは、諦めて死を受け入れるのも一つの答えだと言うことだろう。
でも、僕はりえを救いたい。だから僕は現実にしかない奇跡というものにかけると決めた。
――僕を……僕たちを……あなたの世界に連れて行ってください!
声を出そうとしたが、口が開かない。
絶対に伝わらないだろうと思いつつも、
『分かりました。それがあなたたちの選択ならば、一緒につれて行かせていただきます! 』
伝わってくれたようだ。……よかったぁ。
そして、今僕は……
――あなたの力となり、この恩を必ず返してみせる
そう、僕は強く心に誓った。
『――ただ。その代わりに、……あなた方二人に……お願い……したいことが……あります……』
お願いしたいこと? 任せてください!
――あなたの願いならば僕はどんなことだってやり遂げて見せる。
僕に希望を与えてくれたから。自分の命を守れる希望を。大切な人をもう一度会える希望を。
あなたの力となり、この恩を必ず返してみせると決意したから。
僕は、楽をして楽しく生きていきたいと思う人間だ。……だけど。 恩に報いたい! その気持ちはだれよりも強い!
あなたの力になりたい! だから!
『――いえ。変なことを言ってしまいましたね。……あなたを私の望みに付き合わせるわけにはいきません。どうか、忘れてください……。あなた方が永遠に。笑顔でいられることを、心から願っています。それでは……。……
ま、待って! 僕はあなたの望みに付き合いたいんです。付き合わせてほしいんです。
恩を返したい……。あなたに……。ただ……それだけ……なん……で……す……。
――気づくと、意識は虚無の世界に呑み込まれていた。
【あとがき】
『続きが気になる!』と少しでも思っていただけたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます