第51話 ドM&ドS


「――あの……? これは……一体どのような遊び……なの……ですか? 」


 なじみのある声に驚き、後ろを振り向くと、そこには不思議そうに首をかしげ、たたずんでいるエマがいた。

 

 見事なまでのフラグ回収である。

 しかし、今回は本格的にヤバい。

 あの状況はどこからどう見てもドSのりえ様……じゃなくてりえと、ドMの僕が妙な特殊プレイをしているようにしか見えないだろう。

 

 非常にまずい。

 さっきのエマの言い方は少しひいているようにも感じた。

 おそらくそういう風に勘違いしているのだろう。

 一刻も早く訂正せねばなるまい。


「――エ、エマちゃん!? え、えーっと、これはアレよ、アレ。……えーっと。……生粋きっすいのドMのあおいのために妙な遊びに付き合ってあげていた的な……。葵のためであって決して私がドSとかではないみたいな……。……ま、まぁ、とにかく葵が全部悪いってこと……かな」


 うっわ、こいつ!!!やりやがったな!!!

 全部僕のせいにしやがった。


 ……け、決して僕もドMではないのだが、百歩いや千歩いや億歩おくほ譲り、僕がドMだとしてもあれだけノリノリだったりえも当然ドSになるに決まっている。

 自分だけ逃げるなど許せない。

 ここは無理やりにでもりえを巻き込んでやる!

 ……よし、この作戦で行こう!


「はぁ!? 何言っちゃってんですかぁ? りえ様……じゃなくてりえも、めっちゃノリノリじゃったじゃないですか!? 百歩いや、億歩譲って僕がドMだったとしても、りえももちろんドSでしょ」


 言ってやったぜ。

 よしこれで、『第一段階:りえを巻き添えにする』 に成功だ。

 まぁ、第一段階といっても第二段階までしかないのだが……。


 にしても、我ながら完璧な作戦だ。

 僕のせいにしたこと、絶対に後悔させてやる!

 全部人のせいにしようとするからこうなるのだ。

 こういう時は二人で一緒に地獄を見るべきだ。

 自分だけ安全圏に避難するなど僕は許さない。


 今回の僕の作戦はこうだ。

 まず、さっきの第一段階でりえを巻き添えにする。

 そうすれば、どうせあのりえのことだ。

 自分は決してドSではないのだと言い訳をするに決まっている。

 そうなれば、後は僕のターンだ。

 そもそものこうなったあの魔法の言葉を使うのだ。


って? 』


 っと。

 そして、りえが悔しむ顔を見せ、僕が勝利となる。

 当初の目的だった『エマの勘違いを訂正する』ということには直接関係しないが、まずはりえに僕一人のせいにしたことへの罰を受けてもらわなければならない。

 なのでこの作戦の成功が今の僕の第一優先事項である。


「ド、ドSじゃないし。っていうか、『もちろんドSでしょ』ってただのあんたの感想じゃない。世間一般がそれとは限らないからね。特に常識に欠けているあんたは世間から浮いてるんだから余計気をつけなさいよ」

「それもそうかもな……」


 言い訳をするかと思われたりえが急に説教のように言い出した。

 確かに僕はめったに怒らないといわれている学校の先生に『常識に欠けている』と怒られるほどの生粋の非常識な人間だ。

 この言葉は一見、いや一聴するとおせっかいのようにも聞こえてしまうがその言葉は僕への本気の助言なのだろう。

 

 はぁ……。

 あぁ、なんだか僕のせいにしたことを後悔させるためなどと作戦を考えていたことが馬鹿馬鹿しく思えてきてしまった。

 りえはこんなにも僕のためを思ってくれているのに、僕という人間はどうしていつもこうなのだろうか。

 まぁ、過去のことを後悔してももう遅い。

 今日、今から先は気を付けていこうと心に刻むのが一番だ。

 それを気づかせてくれて本当にありがとうな、りえ。


 っと、いい話で終わればいいのだが、そうもいかないのが人生。

 まだドM&ドS事件が解決していないのだ。


「ねぇねぇ、私考えたんだ。このまま話し合っててもなんもないじゃない。だからさ、ドMかドSかどうかエマに判断してもらいましょうよ」


 確かに、それが一番手っ取り早いかもな。

 今まではずっとエマが妙なプレイをしていたと勘違いしているのだろうと思い込んでいたが、言われてみればそんな証拠はない。

 かってにどうしようと慌てていたが、確定もしてない可能性なのだ。

 エマに直接聞くのが一番だろう。


「まぁ、それもそうだなだな」

「うんうん。じゃぁ、さっそくだけどエマ。私たちってドMとドSだと思う? 」

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