第50話 決してドMじゃないからね!

って? 」


  おっと、危ない危ない。

 つまらないことをつい言ってしまいそうになってしまっ……


「――さっむ。なに、急にダジャレ言ってんのよ。そもそも、さっきのは言い訳じゃないし。事実を述べたまでだし」


 ………………。やっべ!

 もしかして、口に出して言っちゃた感じ!?

 聞こえちゃってたの!?

 うっわ。マジ最悪。

 

 ……あぁ。ジャンピング土下座だけはもうしたくないな。

 今日はすでに女神様に向かって一度しているのだ。

 一日に二回もジャンピング土下座とかさすがに僕の誇りが許さない。

 ……ッチ。仕方がない。

 こうなれば禁断の必殺技の出番か……


 ――ガシ!


 りえが逃げられないように僕の右腕をつかんだ。

 ……クソォ!

 ダッシュでハンネスさんのところまで行き、かばってもらおうと思ったのだがバレてしまったいたようだ。

 どうしよう。

 僕の禁断の必殺技までも不発に終わってしまうとは……。


「あっれれ??? 一体どうしたのよ、葵。何でダッシュなんてしようとしたの??? なんか不都合なことでもあったの??? 」


 ウザい、ウザすぎぎる。

 真っ赤になっているであろう僕の顔をのぞき込むように見ながら凄い嫌みのある声と顔であおってくる。


「そういえば、膝枕事件の時もこんな感じで逃げようとしてゾンビに襲われる羽目になったわよね。葵ってもしかして、不都合なことがあったら逃げようとするズルイタイプの人間なの??? 」


 ウザい、ウザすぎる。


「これは、あれだよ。あれ。……えーっと。たまたまさっきはハンネスさんのところにさっさと行きたかったから走ろうとしただけで、それが逃げようとしている感じに捉えられちゃった的な……。まぁ、なんだ。今回は偶然が重なっちゃタだけで決して不都合なことがあったらすぐ逃げようとするようなタイプではないかな……」


 何言ってんだよ、僕。

 メッチャかっこ悪いな。

 ……昔から僕はこうなのだ。

 押しに弱いのだ。

 大のアニヲタである僕は推しの笑顔を見るだけで心をあっという間に奪われ、発狂しながら地面をコロコロ転がり回ったほど推しには弱いのだ。

 ……ってそっちの推しじゃねぇわ!


 ていうか、さっきから異様に自分のテンションが高い気がする。

 なにかとてつもなくうれしいことがあったかのように……。

 いや、女神様にやっと会え、遊ぶ約束まででき、その準備をしているのだからそれくらいのテンションになるのは当たり前か。

 ……なにか、それ以外でうれしかったことがあったかのようにも感じるのだが。

 しかし、女神様に会ったこと以外は、寝起きのあの事件くらいしかない。

 あれだけ褒めてもらえたのだからこれくらいうれしくても何ら違和感はない。

 でも、それとも違うなんか安心したような、胸がキュンと引き締まるような……。

 なんだろう。この気持ちは。

 自分で自分がよく分からない。

 りえにこうやってあおられている今、この瞬間までも楽しいと感じてしまう自分がいる。


「あっれれ??? って??? 」


 前言撤回だ。これはウザい。

 今この瞬間を楽しいと感じるのならば、それはただのドMだ。

 今この瞬間の感情は赤色だ。

 最初にあおったのは僕とは言え、さすがここまであおられては僕も堪忍袋の緒が切れるというものである。

 ここはガツンと言ってやらねば……。


「す、すいませんでした~! 」


 僕は本日二回目のジャンピング土下座を敢行かんこうした。


「やっと認めたわね。……それじゃあまず、土下座をしたまま『りえ様を煽ってしまい申し訳ありませんでした』って私に謝って。自分の過ちを認めるんだもんね」


 ――ぐぬぬ。

 自らの過ちを認めたとは言え、さすがにそんなことはしないに決まっている。

 僕の中では仏の顔も一度までである。

 今度こそ、さすがに……。


「最初にりえ様を煽ってしまいすみませんでした! どうかお許しを、りえ様! 」


 は! なぜか口が動いてしまった。

 まぁ、良い。

 これで本当にラストだ。

 仏の顔も二度まで。

 これ以上はさすがに僕も本格的に怒るぞ!


「すみませんじゃなく、申し訳ありませんでしたでしょ。やり直し! 」

「りえ様をあおってしまい申し訳ありませんでした! 」

「そう、よくできたわね。よしよし」

「ありがとうございます! 」


 は!

 またも、なぜか、本能的に反応してしまった。

 っていうか、今この状況を他の人に見られていたらヤバいのではないだろうか。

 って、今盛大にフラグを立ててしまった気がする。


「――あの……? これは……一体どのような遊び……なの……ですか? 」


 なじみのある声に驚き、後ろを振り向くと、そこには不思議そうに首をかしげ、たたずんでいるエマがいた。

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